クライ・マッチョ (2021):映画短評
クライ・マッチョ (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
重厚というより芳醇、これもまたイーストウッド!
イーストウッドは巨匠のイメージが強く、重厚な作品を期待する向きもあろうが、彼の監督・主演作には、サラリと、ひょうひょうと人間ドラマを描くケースも少なくない。本作もその系譜に属する。
歳の離れた者同士の旅物語は『センチメンタル・アドベンチャー』的で、老人と少年の交流は『グラン・トリノ』を連想させる。そこに『ブロンコ・ビリー』『運び屋』の軽妙さを織り込んだつくり。ユーモアと人間味の絶妙のバランスという、イーストウッド作品の一面を再確認できる。
少年の成長劇であると同時に、自分の居場所を見つける老アウトサイダーの物語は、重厚でないからこそシミる。むしろ芳醇と呼びたい。
自らこの役を演じようと決めた巨匠。そこだけで愛おしい
さすがにその動きに年齢を感じさせるも、イーストウッドが監督作で自ら主人公を演じているのを眺めるだけで至福の時間が過ぎていく。しかもほのかなラブストーリーの側面も強い物語を、自分で演じたいと思う、その決意が愛おしい。
妻に先立たれたカウボーイ、生き方の違う年少者との交流、老人の国境超え、立ち寄った先での絆…と、イーストウッド作品のエッセンスが網羅されており、一人の映画監督/俳優の人生をたどる感覚も。
劇的なストーリーのわりに展開はやけに穏やかで、そこが物足りないと感じる人もいるだろう。そんな人も、ラストシーンに触れた瞬間、幸福な気分には浸れる。観ている間よりも、観た後にかみしめる味が濃い作品だ。
そのキャラ設定がズルい
『グラン・トリノ』でも描いた第一線を退いた男と若者との交流が軸となる『運び屋』の話であり、女性にモテモテという意味でも、紛れもないイーストウッド監督&主演作。愛弟子が監督した『マークスマン』に比べても、少年のキャスティングなど、一枚上手だったりもするが、完璧な善人も悪人も登場しない、酸いも甘いも知り尽くした老人目線。そのため、派手な展開にはならないが、元ロデオの花形スターというズルいキャラ設定と彼の訓えが、何とか話を引っ張っていく。また、ロードムービー繋がりで『キャノンボール』のプロデューサー、アルバート・S・ラディ(イーストウッドとタメ!)がクレジットされていることに胸アツ。
逞しさと軽やかさ
91歳のクリント・イーストウッドの監督50周年、監督40作品目という節目の一本。
様々なヒーローを演じ、描き続けてきた漢が、いよいよその佇まいだけで逞しさを感じさせるようになってきました。
年齢的なことももちろんありますが、イーストウッドは劇中ではアクションと呼べるものはほとんどせず、発する言葉も短いワードだけです。
でもそこに込められているものは実に多く、心に沁みます。アクションが減っていく一方で、作品が纏う軽やさかとチャーミングさは年々増すばかり。
イーストウッドにとって老いとは進化だ。