ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ (2020):映画短評
ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ (2020)ライター4人の平均評価: 4.3
英国の田舎の音楽スタジオでマジカルな出来事が起きる
現在は音楽がデジタル化されてネットでの共有も可能になり、全員がスタジオに集合して一緒に演奏するということすら稀かもしれないが、この映画は、英国ウェールズの田舎にある滞在型の音楽スタジオのお話。野原の真ん中にある、かつては農場だったスタジオで、メンバー全員が一緒に寝泊りして食事を共にしながら音楽を演奏すると、マジカルな出来事が起きる。1970年代のブラック・サバス、ホークウインド、80年代のストーン・ローゼズ、シャーラタンズ、90年代のブー・ラドリーズ、00年代のコールドプレイ等々、英国の人気バンドがズラリ。コールドプレイのクリスが語る「イエロー」が生まれた夜の思い出話など細かな逸話も続々。
UKロックの聖地は音楽少年たちの合宿所だった!
50年以上前に音楽好きの農家の跡取り兄弟が古い農場を改装し、クィーンからコールドプレイまで数々の大物UKバンドが名曲を録音した伝説の音楽スタジオ、ロックフィールドの魅力に迫るドキュメンタリー。のどかな田園風景に囲まれたこの場所が、なぜアーティストを惹きつけたのか。宿泊施設を兼ねたロックフィールドではみんなが寝食を共にし、24時間音楽に集中できる。大音量で演奏しても近所迷惑にならないし、ハッパも吸い放題。煮詰まったら近くの森や川で遊んだり、農場の動物たちと戯れたり。そこは音楽少年たちが自由に羽を伸ばせる最高の合宿所なのだ。オアシスのハッパをストーン・ローゼズが盗んだとか楽しいエピソードも満載。
UK版マッスル・ショールズの「魔法」
ドキュメンタリー映画『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』(13年)に触発されたH・ベリーマン監督が手掛けた貴重な一本。ウェールズの農場を改造し、ウォード兄弟とその一家が立ち上げた滞在型音楽スタジオの軌跡。牛や豚、豊かな田園に囲まれたホテルも兼ねる事で、数々のやんちゃなロックスター伝説が刻まれる聖地ともなった。
黄金期は70年代と90年代。ブラック・サバスやクイーンの名曲が生まれ、ストーン・ローゼズからオアシスへの橋渡しなど、英国ギターバンド史そのもの。デジタル録音が普及した現在、音楽スタジオの経営難や淘汰が相次ぐ中、本作は「魔法(magic)を信じるかい?」との表現的主題を突きつける。
楽しい(だけではない)合宿レコーディングに見る青春群像
名門レコーディングスタジオを題材にしたドキュメンタリーがここ数年増えているが、本作の面白い点は“滞在型”というロックフィールドの特性に焦点を絞っていること。
そこでのレコーディングはバンド側には合宿のようなもので、若くて仲間意識が強いほど気持ちも高揚する。名曲や名盤が生まれた背景に、そんな“空気”の効果があったことは興味深い。
酒や麻薬、ケンカなどのヤンチャも含め、語られるエピソードはどれも面白く、青春群像劇の色も濃厚。ストーン・ローゼズやオアシスの破天荒さに笑い、ブー・ラドリーズの確執に無常を覚え、シャーラタンズの悲劇に泣く。青春は必ずしも良い思い出ばかりではない。