スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース (2023):映画短評
スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース (2023)ライター7人の平均評価: 4.4
ティーンエイジャーの孤独と寂寥感
ビジュアルもストーリーも圧巻。そんな中で描かれているのは、ヒーローとヒロインの圧倒的な孤独と寂寥感だ。ティーンエイジャーたちはあれもこれも諦めたくないのに、大人たちはみんな運命に逆らおうとしない。ティーンエイジャーたちはあれもこれも必死に頑張っているのに、親たちは自分の都合ばかりで理解しようとしない。そんな彼らの孤独と寂寥感は、今の世の中で未来を切り開こうとする若者たちに重ねられているように思う。だから彼らが懸命になったり、誰かがサポートしようと立ち上がったりすると、無性に泣けてくるのだ。パーティームービーだと思って大量にポップコーンを買い込んでいくと、意外と食べるタイミングに困る作品。
宿命にさからう、若きヒーローの愛しき反抗
ハリウッド映画のトレンドというべき“マルチバース”の源流にもなった前作はオスカー受賞も納得の快作だったが、この続編も負けてはない。
世界と、愛する者を同時に救うことができないスパイダーマンの宿命は、どのバースにも共通する。それに抵抗する主人公マイルスの奔走が熱を帯び、興味を引きつけていく。スパイダーマンの世界観を生かし、発展させたナイスなアイデア。
ハリウッド製のアニメーションにしては異例の140分の長尺も気にならず、一気に楽しんだ。次作“ビヨンド~”が待ち遠しい。
もはや、“体感する現代アート”
マイルスとグウェンの成長物語を軸にしたストーリー的に目新しさはないものの、作画・ヴィジュアル面に関しては、いきなり実写をブッ込んでくるなど、ときに脳が処理できなくなるほど、映像表現の限界に挑戦。さらに、やりたい放題なフィル・ロード&クリストファー・ミラー映画としての色も強まり、“体感する現代アート”の域に達している意味でも、軽く前作超えといえるだろう。今後「MCU」及び「SSU」の関連性も気になる小ネタも満載な「スーパーヒーロー大戦」ならぬ“スパイダーマン大戦”だが、『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』に繋がる二部作だと踏まえると、クライマックスはやや引っ張りすぎかも。
“芸術”としてのアニメーションの可能性を見せる
2018年のオリジナルもビジュアルが画期的だったが、この続編はさらに上をいく。コミックふうだったり、水彩画や印象派のようだったり、時には実写も入れたりと、ひとつのシークエンスの中でもいろいろミックスされるのだ。背景、ディテールも美しく、どのショットも停止して眺めたくなるほどだが、話の展開のテンポは早く、すばらしい映像が猛スピードで目の前を通り過ぎていく感じ。他と一線を画すアニメーション作品だ。ストーリー面では、過去にあまり見せ場がなかったグウェンに焦点が当たるのも良い。「次に続く」で終わるのはコミックらしくもあるが、映画なのだから一応完結してほしかったと思う人もいるかも。
芸術としてのアニメのひとつの到達点。このヒーローの魂も忘れず
前作でも複数のバースをアニメーションのバラエティ豊かな表現で楽しませたが、今回はひとつひとつがさらに洗練を極める。特に冒頭のグウェンのパートは、そのタッチが様々な感情を喚起させ、アニメという芸術の根源を夢見心地で観せられた気分! 敵役スポットの妙なアナログさも実写で不可能な喜び。
一方でドラマとしては重要な場面でスパイダーマンの本質を追求。2つの顔をもつ身としての使命、犠牲、後悔、他者への告白という要素をうまく配し、劇的な感動へ導く流れに、このヒーローが長い間、愛されてきた理由を再確認させる。
短いカットのフラッシュ感、細部のこだわり、その膨大な情報量を存分に味わううえで吹替版の方がいいかも。
リテラシーは必要なれど素晴らしいテンポとビジュアル
前作というよりこれまで連綿と綴られてきた”スパイダーマン”というものに関してのリテラシーがあった方が心底楽しめる映画であることは確かです(もちろん何も知らなくても大量に出現する様々なスパイダーマンを見るだけでも楽しいですが)。とは言え、流石はオスカー受賞作品の続編ということで、ビジュアルの素晴らしさはさらに進化&深化していいて圧巻です。また、実は上映時間が140分程あるのですが、それを長いと思わせないテンポの良い素晴らしい演出はお見事の一言です。3部作構造の2作目ということですが、早くも続きが楽しみです。
あの素晴らしい前作を、軽々と超えてくる
前作があまりに素晴らしかったので、そうは言っても前回を超えるのは難しいだろうと思ったら、あっさり前作を超えた。
しかも、それがヴィジュアル面だけではない。冒頭のロゴマークからかなり飛ばしてる映像表現がさらに進化しているのは当然として、コンセプト面、ストーリー面でも、こちらの期待を超えてくる。ネタバレになるので何も言えないが、その度にいちいち、そうか、その手があったかと感嘆させる。それでいて、主人公の成長物語という基本はキープ。アメコミの構造自体にまで踏み込む部分もあるが、そもそもこのシリーズは最初からそういうスタンスだった。いったいどこまで行くのか、早くも次回作が楽しみになる。