a-ha THE MOVIE (2021):映画短評
a-ha THE MOVIE (2021)ライター3人の平均評価: 3.7
ノルウェーから飛び出した世界的ポップ・バンドの軌跡
かつて日本でも一世を風靡したポップ・バンド、a-haの40年に渡るキャリアを振り返るドキュメンタリーだ。ポップス後進国ノルウェーから初めて登場した世界的トップスター。前例のないパイオニアだからこその苦労と試行錯誤のエピソードも興味深いが、実は楽曲制作やレコーディングの主導権を巡ってメンバー間でバチバチに火花を散らしていたという裏話も、アイドル的な売り方をされていたバンドのイメージとは真逆のハードモードで実に面白い。それが結果的に良い作品を生み続ける秘訣となったわけだ。世界中で大ヒットした「テイク・オン・ミー」が実はリテイク版で、最初のバージョンは本国以外で全く売れなかったというのも驚き。
仲良きことだけが美しいワケではない、バンドの特異な絆
ロックバンドが必ずしも“友情”を基盤としているワケではない。いろいろあってもバンドは続く。本作の興味深い点は、まさにそこ。
“スタジオに入ってもケンカになるだけ”という現在のメンバーの、冒頭の発言からして不穏。ポップアイドルからの脱却を図ってきたa-ha3人のキャリアをたどりながら、映画はこの言葉の裏側に迫る。
一方では、苦しくてもバンドの遺産=楽曲を多く残したいと思う者も。危ういバランスを保ちながら活動する彼らは、バンドの基盤を“音楽を通じた絆”と語る。高揚感あふれる大ヒット曲“テイク・オン・ミー”が今も凛として響くのは、友情を超えた3人の覚悟ゆえか。そんなことを考えさせる力作。
ショウ・マスト・ゴー・オン
話題のデンマーク映画『フリー』(21年)では序盤で「テイク・オン・ミー」が高らかに流れ、ザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」(19年)が同曲の露骨なオマージュだったことを思い出す。a-haの影響力の拡大と長持ち具合に驚かされる昨今だが、これは美談に偏らない、赤裸々な内幕を曝け出すドキュメンタリーだった。
80年代、「辺境」だった頃のノルウェーから初めて世界に飛び出したものの、アイドルとしてのビジュアル搾取に悩み、波瀾万丈の末に今がある。現在ここに在るのは「色々あるが、ともあれ続けている」3人の姿。ひたすら音楽で繋がった彼らにはバンドという共同体の生々しい真実が映っている気がする。