ティル・デス (2021):映画短評
ティル・デス (2021)ライター4人の平均評価: 3.3
フェミニズム色を打ち出したミレニアム印のB級スリラー
雪の降り積もる真冬のアメリカ東部。人里離れた湖畔のロッジで週末を過ごす夫婦だったが、しかし目が覚めると2人は手錠で繋がれており、妻の目の前で夫が拳銃自殺を遂げる。ひとりで脱出を試みる妻だったが、しかしそこへ現れた怪しげな男たちに襲われ…というブルガリアで撮影されたミレニアム印のB級スリラー。設定的に『ソウ』シリーズの亜流かと思いきや、むしろ『ウィークエンド』や『発情アニマル』に近いジャンルの作品で、自分を棚上げして「俺様の思い通りにならない女を罰してやる!」とミソジニーを拗らせた逆恨み男たちの罠にはめられたヒロインの決死の逆襲が描かれる。ジャンル系低予算映画として手堅い仕上がり。
死がふたりを分かっても、分かれられない極寒地獄!
雪国で生まれ育った筆者の体験も影響しているかもだが、その寒さが生々しい恐怖として機能している点に目を見張った。
雪原での裸足状態、身体の末端に生じる凍傷、寒さの中での小刻みの震え。いつもは肉感的なミーガン・フォックスも危機に陥った瞬間から、まったくエロく見えなくなり、その受難に同情してしまう。
手錠跡に生じる傷や痣、血のりまでもが寒々しく、一方で手錠によってつながれた死体は重々しい。いわゆるスプラッター映画とは異なる温度。新鋭S・K・デールのセンスの良さの表われか。いずれにしても、この監督の次の映画が見たくなってくる。
ミーガン・フォックスがすべてをねじ伏せる
ミーガン・フォックス演じるヒロインの前に、これでもかとばかりに苦境が降りかかる。人里離れた雪の中の一軒家。手首には、死体が繋がれた手錠。しかも、その家に彼女の命を狙う殺人者2人がやってくる。と、数え切れないほどの大小の危機に見舞われるので、中には、いや、その隠れ方では見つかるんじゃないか、とか、その服装で屋外に出るのはどうだろう、などツッコミたくなるところも多々あるのだが、それをあっさり跳ね返すのが、ミーガン・フォックスの存在感とキャラ・イメージ。雪の中、血みどろで悪戦苦闘し、何があっても諦めない。このヒロインの生命力、たくましさの前では、リアルさはもはや些末な要素でしかなくなる。
“死ぬまで”終わらない脱出ゲーム
スティーヴン・キング原作の「ジェラルドのゲーム」のような拘束プレイな導入から始まる、悪夢の結婚記念日。思いのほか、物語のエンジンがかかるまで時間を要するが、不倫の代償として、自分の横で死んでいった夫(じつはクソ野郎!)が仕掛けていたトラップが次々と襲い掛かる、脱出ゲームとしての面白さが光る。『ソウ』のようなシチュエーション・スリラーから、『ホーム・アローン』な密室バトルに至るまで、90分という尺も魅力的。近年のミーガン・フォックス主演作のなかでも、彼女の魅力が引き出された拾いモノで、本作が長編デビュー作であるS・K・デール監督の名は覚えておいた方がいいかもしれない。