私はヴァレンティナ (2020):映画短評
私はヴァレンティナ (2020)ライター2人の平均評価: 4.5
差別に立ち向かうトランス女性を通して人間の尊厳を問う
トランスジェンダーの平均寿命が35歳と言われるブラジル。もちろん原因は差別だ。LGBTQへの理解や法整備が進んでいる同国でも、トランスジェンダーに対する憎悪と偏見は根強いという。17歳のトランス女性ヴァレンティナを主人公にした本作は、そんな理不尽で過酷な環境に身を置きつつも、自らの権利を守るために勇気を奮い起こして抑圧に立ち向かうヒロイン、そんな彼女を支える家族や友人との深い絆が描かれる。これは人間の尊厳を巡る映画であり、トランスジェンダーだけの物語ではない。自身が当事者であるティエッサ・ウィンバックがヴァレンティナを演じることで、ドキュメンタリー・タッチの演出に圧倒的な説得力が加わった。
自分と同じトランスジェンダーを演じることで、感動は希望と化す
トランスジェンダーの高校生は日常生活でどんな問題に直面するのか。このブラジル映画は、家族との関係、学校での名前の呼ばれ方、そして友情や恋愛を徹底的に等身大に見つめようとする視線が清々しい。だから主人公が危うい目に遭っても、素直に感情を共有し、劇中、理解のある母のように温かい目で背中を押してあげたくなる。
自身もトランスジェンダーである俳優が演じたメリットも大きく、戸惑いや喜び、数々の感情表現がじつにスムーズ。再会した父に「こんな娘を持って恥ずかしくない?」と訴えるシーンは、複雑な思いに胸を締めつけられた。
差別の現実も描きつつ、悲劇ではなく、生きていく希望で感動させる。その後味が最大の魅力。