ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行 (2021):映画短評
ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行 (2021)ライター3人の平均評価: 3.7
「肯定」の力に満ちた怒濤のシネフィリア・ドキュメンタリー
個人的に最近最も刺激を受けた一本。プロフィール写真のTシャツに「シネフィリア」の文字が躍る猛者、マーク・カズンズが2010年~21年の新しい映画の重要作111本を論評していく。セレクトは全世界網羅的。スマホ、CGや3D、VRに配信サービス、コロナ禍等の影響で、映画の形が激しく変わったここ10年の考察が展開する。
際立つのがDJ/VJ的な「つなげる」快楽だ。クラシックにもがんがん補助線を引く。例えば『ベイビー・ドライバー』(17年)の音とリズム演出の原型的なものとして『今晩は愛して頂戴ナ』(32年)が挙がったり。『ホーリー・モーターズ』(12年)の“映画の扉を開ける”イメージの引用もいいね!
この10年で世界の映画はなにがどう進化したのか?
イギリスの映像作家マーク・カズンズが、’11年に発表してピーボディ賞にも輝いた映画史ドキュメンタリーの続編。それゆえ、作品チョイスは’11年以降のものが中心となる。この10年間で世界の映画は、技術だけでなく映像言語も含めてどれだけ進化したのか?『ジョーカー』や『ブラック・パンサー』のようなメジャー作品から、ウガンダやチュニジアのインディーズ作品にいたるまで、膨大な数の映画を引き合いに出しながら検証していく。と同時に、サイレント映画にまで遡って古典作品と照らし合わせながら、何が変わらずに受け継がれているのかも分析される。これは見てみたい!と思うような日本未公開作も多く、その点でも勉強になる。
この10年の映画を読み取る、独自の視点が面白い
冒頭で語られる、『ジョーカー』と『アナと雪の女王』は"解放"というモチーフが共通だ、という視点を面白いと感じたら本作は楽しめるはず。このシーンはこうも見えるのかという驚きと喜びが続々。本作は2010年から2021年の公開映画111本を素材に、独自の視点からこの10年間の映画の変貌を読み解くドキュメンタリー。監督とナレーションを務めるのは、映画の誕生から2000年代までの映画の歴史を描く著作を書き、それを基に全15話のTVシリーズ「ストーリー・オブ・フィルム」でも同じ2役を担当したベルファスト生まれ、エジンバラ在住の監督マーク・カズンズ。独特の北部なまりの語りに静かな情熱が溢れている。