フォーエバー・パージ (2021):映画短評
フォーエバー・パージ (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
差別や暴力は麻薬のように中毒化する
全体主義化したアメリカで国民のガス抜きのため、年に1度の12時間だけ殺人が合法化される…という設定でフランチャイズ展開してきた『パージ』シリーズ最新作。パージ法のタイムリミットに飽き足らなくなった一部の市民が暴徒化し、遂には政府の機能が麻痺したことから、6時間後に迫った国境封鎖までに国外脱出を試みる人々のサバイバルが描かれる。差別や暴力を少しでも許したら最後、麻薬のように中毒化してしまうというのはその通り。移民を快く思っていなかった白人富裕層と、差別に不満を持つ移民労働者が、生き残りを賭けて団結するうちに互いを認め合うという筋書きも、ベタではあるが現代社会に向けた大切なメッセージを孕む。
現代の悪夢=“分断”に、終わりはないのか!?
ついに終わらないパージへと突入する人気シリーズ第5弾。今回は本格的にアメリカの“分断”に切り込んできた。
移民を殺して国家の浄化を! 先日も人種差別的な銃乱射事件が実際に起きてしまったが、そんな米国の闇を本作は生々しく浮かび上がらせる。さらに、金持ちは死すべし!……という“浄化”も描かれるが、これらの分断思想のカオスこそが本作の恐怖の肝。
メキシコ系移民夫婦を主人公に設定し、そのサバイバルを物語の中心に置く。これがまたスリリングで、白昼の砂漠や夜の街などシチュエーションを変えつつの逃亡劇が目を引く。エンタメ性と社会性が、これまで以上に密に結びつき、バランスを保った感あり。
ルール無用・掟破りな展開に突入!
これまでもアメリカ合衆国を皮肉り、攻めまくるメッセージ色が強いシリーズだったが、ブラックスプロイテーションの趣たっぷりの「エピソード・ゼロ」な前作に続く今回は、さまざまな人種が入り乱れるテキサスを舞台に、移民問題を軸にメスを入れていく。ジェームズ・デモナコによる、おなじみトランプ批判も炸裂するなか、「もしも、12時間で終わるはずのパージが、終わらなかったら?」という、ルール無用・掟破りな展開に突入! 結果、テイラー・シェリダンが撮りそうなアクション映画へと変貌する。異色の西部劇として楽しむこともできるが、1作目のホラー・テイスト好きには賛否ありそうだ。
強烈な政治的メッセージをうまく盛り込むエンタメ映画
大衆向けエンタメでありながら、政治的あるいは社会的なメッセージを伝えるのは、ホラーやSFが得意とすること。このシリーズはいつもうまくそれをやってきたが、今作も人種差別や移民などアメリカが直面する問題に効果的に迫る。パンデミックで公開が遅れただけで、ジェームズ・デモナコがこの脚本を書いたのは、メキシコからの移民を毛嫌いするトランプが大統領だった頃。今作ではアメリカ人がメキシコに移民したがるのだから、強烈に皮肉だ。昨年1月6日の議会議事堂襲撃事件を思わせるシーンもあるが、あの事件が起きた時はもう撮影は終わっていたそう。将来、ほかにもここで見るようなことが本当に起こらないよう願いたい!