PLAN 75 (2022):映画短評
PLAN 75 (2022)ライター2人の平均評価: 4.5
短編時より、さらに現実味を帯びた
オムニバス『十年 Ten Years Japan』の中では、(キャスティングなど)いちばん地味ながらもエッジが効いていた一編を長編化。「PLAN75」の適用を勧誘する公務員を磯村勇斗が演じるだけで、かなり見え方が変わってくるが、声も特徴的な河合優実をコールセンター職員役にキャスティングしたことに拍手。そして、何より“覚悟”を体現する倍賞千恵子の圧倒的な存在感により、短編時のSFディストピア感から、さらに現実味を帯びている。あえて登場人物の表情を見せないなど、いろいろと余白を与えすぎている部分もあるが、それはそれで日本映画らしくなく、カンヌにおける高評価も頷ける。
このやるせなさを、どう受け止めれば良いのか
75歳以上で自ら死を決意すれば10万の給付金がもらえる制度は、突飛な近未来SFのようで、システムがかなり細部まできちんと描きこまれ、現在の超高齢化社会、日本政府の諸々対応などを考えると現実感をもって迫ってくる。その点で本作の恐ろしさは尋常ではない。
主演の倍賞千恵子はセリフに頼らず真情を伝える高等テクニックを全編で使い続け、圧巻の一言。演出も、状況を説明するシーンをあえて省略しつつ、何がどうなっているか観ているこちらに理解させ、監督のセンスが冴えわたる。ポイントの幸福な描写、その美しさと切なさたるや…。
映画が社会に警鐘を鳴らす役割があるなら、それを果たす最上の成果。まさに今観るべき一本。