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ニューオーダー (2020):映画短評

ニューオーダー (2020)

2022年6月4日公開 86分

ニューオーダー
(C) 2020 Lo que algunos sonaron S.A. de C.V., Les Films d’Ici

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

斉藤 博昭

『パラサイト』のバージョンアップ版

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

富裕層と貧困層の大逆転劇を描く点で『パラサイト 半地下の家族』と観ながらシンクロするが、本作はさらに大きなスケールで、そして生々しい描写もテンコ盛りなので、大胆かつ新鮮な驚きに満ちていく。メキシコシティのクーデターで、豪華な邸宅での結婚パーティが侵入者たちによって血祭りと化す前半から、その場に放り込まれたような恐怖が突きつけられる。
こうした衝撃作の場合、血の「赤」が本能を刺激してくるが、ここでは「グリーン」の液体が多用されたりと、スタイリッシュな映像を観させられている錯覚も。
後半、さらにカオスとなる市街地、目を覆うような性被害を、今を生きる我々は映画の“作りもの”と捉えられるか?

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

いつどこで起きてもおかしくない最悪の事態

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 貧富の格差が拡大する現代のメキシコで、暴徒と化した民衆が武器を手に高級住宅地の富裕層を次々と襲撃。すると、治安を守るはずの軍隊が混乱に乗じて政権を掌握し、富裕層だろうと庶民だろうと見境なく弾圧する恐怖政治を敷くことになる。世界各地で経済格差が広がり政治が不安定となる中、いつどこで起きてもおかしくない最悪の事態を描いた作品。主にキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』に影響を受けたそうだが、その冷徹なリアリズムはコスタ=ガヴラスやジッロ・ポンテコルヴォにも通じる。気が滅入るほどに救いのないストーリーだが、しかしだからこそ強烈な説得力がある。我々日本人も、この警鐘を肝に銘じておかねばなるまい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

普遍のシステムの循環と法則

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『パラサイト 半地下の家族』や『レ・ミゼラブル』等に連なる格差社会を背景にした「暴動」映画だが、一群の中で最もソリッドな構造。富裕層のパーティーが瞬く間に阿鼻叫喚の地獄へと変貌する。86分のコンパクトな物語には、アウシュヴィッツなど幾つもの歴史の負のイメージを見ることができるだろう。

監督のミシェル・フランコ(79年生)は『父の秘密』『或る終焉』『母という名の女』など、人間の残酷という主題を、露悪を超えた性から照射する。その決定版の登場だ。冒頭に配された監督と同世代であるメキシコの画家、オマール・ロドリゲス・グラハムの『死者だけが戦争の終わりを見た』もピカソ『ゲルニカ』ばりの象徴性を放つ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

本当に起こり得るかもと感じさせる恐怖

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

多くの国で貧富の格差が進む今、この映画で起こることは現実味があり、それが恐怖を高める。金持ちの登場人物の中では思いやりのある人も容赦なくひどい目に遭うところが、よりリアルでもあり、辛くもある。あまりにも暗く、希望のないストーリーなので、好き嫌いが分かれるのは必至。少なくとも、良い気分になれる映画では決してない。しかし、このホラー/スリラーが。我々の社会がどれほど不安定でギリギリのところにあるのかをはっきりと伝えてくるのは確か。鮮やかなグリーンを使ったビジュアルやサウンドも効果的。論議を呼ぶこと間違いなしの、大胆で野心的、かつオリジナルな作品だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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