マルケータ・ラザロヴァー (1967):映画短評
マルケータ・ラザロヴァー (1967)ライター2人の平均評価: 4
崇高な映像美と圧倒的な生命力に目を見張るチェコ映画の最高傑作
13世紀半ばのボヘミア王国。王家の支配と抑圧に抗わんとする盗賊騎士の一門が、同盟を拒まれた腹いせに領主の娘マルケータを略奪したところ、一門の跡取り息子とマルケータが愛し合うようになり、やがて事態は血で血を洗う戦争へと突入していく。チェコ映画史上の最高峰と謳われる伝説の傑作が遂に日本初公開。タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』を彷彿とさせるモノクロの崇高な映像美の中に、愛と欲望、憎しみと暴力、信仰と疑念の渦巻く壮大な宿命のドラマが展開する。溢れ出る圧倒的な生命力は、やはりニューウェーヴ映画が台頭した時代の勢いゆえか。自由で大胆な性描写にも驚かされる。ケン・ラッセルのファンにもおススメ。
いきなり中世に放り込まれる
いきなり中世の世界に放り込まれる。この体験は新鮮だ。映画が製作されたのは1967年、原作小説が刊行されたのは1931年、物語の舞台は13世紀なのだが、映画はそのどの時代にも属していないように見える。荒々しく粗野な、抽象概念としての中世。映画の文法も定型ではなく、ナレーションはどの視点から発せられているのか判別できず、音声は奇妙な残響音を伴う。登場人物たちの行動も精神の動きも、この世界の法則に従っている。地面の上に仰向けで大の字に横たわる人間が映し出されるのを見ても、その人物が寝ているのか死んでいるのか、見分けられない。羊や鼠、ロバなどの動物たちが動き回り、人間たちがその近いところにいる。