LAMB/ラム (2021):映画短評
LAMB/ラム (2021)ライター6人の平均評価: 4
古代神話や民間伝承にも通じるシュールな怪奇幻想譚
いやあ、これはなかなか面白い!見渡す限り草原の広がる、凍てついたアイスランドの田舎が舞台。主人公は平凡な日常を淡々と送る羊飼いの夫婦。いつものように羊の出産に立ち会ったところ、とてもじゃないが普通ではない異形の「何か」が生まれてしまう。ネタバレ厳禁なので、これ以上深くは内容に言及しないものの、一歩間違えるとバカバカしい与太話になりかねないようなストーリーを、古代神話や民間伝承の如きシュールな怪奇幻想譚として仕上げた作劇&演出のセンスは秀逸。A24が北米での配給権を獲得したというのも大いに納得である。ビョークの作詞家としても知られるアイスランドの詩人ションが脚本に関わっているのも要注目。
この子も邪悪
吹雪のファーストカットから恐ろしいほど作家性が強く、よくある特殊効果マン出身の監督デビュー作とは一線を画す。さらに、製作総指揮にタル・ベーラの名がクレジットされていることでも分かるように、とにかく一筋縄ではいかない怪作である。淡々と描かれる夫婦の日常描写からの、超展開と化す「第1章」から、観客の代弁者だった義弟すらも取り込まれてしまう「第2章」を経て、衝撃的な「第3章」へ。不穏なのに、微笑ましい家族ドラマが展開されるブラックユーモアに加え、“ただの子どもじゃない”存在など、初めて『イレイザーヘッド』を観たときのような「何だコレ!?」感だけに、賛否分かれるのも頷ける。
何かはわからないが、確実に、ヤバいものを見た!
吹雪の中の羊小屋に“何か”が迫るオープニングからしてタダならぬ気配。アイスランドの神秘的な自然の景色をバックに、異様なドラマが展開していく。
アイスランドに伝わるさまざまな神話からヒントを得て、そこに現代人を置いた物語。主人公は文明とは隔絶された地に住む牧羊農家の夫婦だが、クライマックスの直前、スポーツ観戦と泥酔という世俗に引き戻しつつ、悲劇へと突入する巧みな展開に唸った。
肝となるのは“喪失”で、それを埋めるべく行動に出るのは人として正常な行為である、と監督は語る。まずは見て欲しい。なんだかよくわからない。が、ヤバいものを見てしまった……という印象は確実に残るだろう。
静謐な世界にどこか民話的な気配も漂う
空も大気も、青味がかった灰色で、寒く冷たい。アイスランド。見渡す限り山しか見えない一軒家。羊を飼う夫婦。人間の数が少なく、空と大地が大きく、静謐で硬質な世界は、どこか民話的な気配も漂う。
ストーリーの語り口は巧妙。羊が産んだものが何なのか、かつて夫婦に何があったのかは、ごく僅かずつ明かされていく。人間の複雑な心理を描く物語なのかとも思わせるが、そこには着地せず、急角度で予期せぬ方向に向かい、衝撃を与える。
監督/共同脚本は、アイスランド出身、これが初の長編となるヴァルディミール・ヨハンソン。『トゥモロー・ウォー』の特殊効果も手掛ける技術系出身。次回作が気になる。
現れるその姿は、恐ろしく、神々しく、そして愛おしい
白夜のアイスランド。現実とファンタジーのボーダーが曖昧になるには最高の背景。
この世に生を受けた赤ん坊、最初はその顔が見えそうで見えないもどかしさに身悶えしつつ、いざ出てくれば期待を上回る御姿。かわいいとか、不気味とか、そのボーダーも消え、否が応でもストーリーに没入させる魔力を備えたキャラクター。出現の演出に感動する。
もちろんこの子供はメタファーとして観る人それぞれが「意味」を考えればいいのだけれど、とことん恐ろしいことが起こりそうな不穏さが全編にキープされ、そのスリルの方に気をとられる印象。あまり深読みせず、起こっていることの奇妙さ、エグさ、そしてユーモアを素直に浴びればいい作品かも。
恐ろしい民話のよう。その奥にあるのは深い悲しみ
きわめて独創的な映画。不気味で恐ろしく、同時にばかばかしくもあって、妙に居心地の悪い気持ちにさせる。全体像をしばらく見せないやり方もうまい。人里離れたアイスランドの大自然という風景も、民話のような雰囲気を与えている。意外なラストは、解釈や意見が分かれるはず。この奇妙な話の奥にあるのは、夫婦の間にある深い悲しみ。その部分を、国際的女優の代表であるノオミ・ラパスが(子供の頃アイスランドに住んだという彼女は、今作にアイスランド語で出演)が、繊細に表現する。今作で長編監督と脚本家としてデビューを果たしたヴァルディマル・ヨハンソンが、今後どんな作品を生み出していくのか非常に楽しみ。