X エックス (2022):映画短評
X エックス (2022)ライター6人の平均評価: 3.5
「バーデン・ベラーズ」OGの歌声も聴けます
『キャビン・フィーバー2』の監督に抜擢されながら、第二のイーライ・ロスになれなかったタイ・ウェストが、A24という新たな畑で才能開花。『悪魔のいけにえ』を始めとする70`sオマージュ大会にして、3部作という大風呂敷の広げ方は大いに買いたい。ジョン・ハフ監督の『アメリカン・ゴシック』の影響もみられるなか、問題はポルノ映画の件が長すぎるところ。そのため、『ミッドサマー』の不穏さを求めると、どこかモノ足りない。ネタバレありなミア・ゴスは当然だが、注目は『ピッチ・パーフェクト』のクロエ姐さんことブリタニー・スノウ。あの美声でフリートウッド・マックの「ランドスライド」を歌い上げてくれるのだ。
素晴らしき70’sトラッシュ&スカムカルチャーの世界へ!
A24初のシリーズ化(三部作)が予定されているホラー映画だが、やたらセンスが良くて面白い。タイ・ウェスト監督の代表作では? 1979年テキサスの田舎に低予算ポルノ映画クルーの若者たちが訪れるところから、『悪魔のいけにえ』(74年)ムードたっぷり。監督いわく「俗っぽい題材をハイブローなものに」「セックスと暴力を描く昔ながらのエクスプロイテーション映画を、より愛情を込めた手法で再構築する」試み。言わばタランティーノの『グラインドハウス』的アプローチ!
「エセ・ゴダール感」の導入も良く、音楽もいちいちシャレていた。79年ネタではロバート・パーマー『想い出のサマーナイト』の余りの絶妙さにバカウケ!
『悪魔のいけにえ』オマージュ、そしてその先へ!
テキサスの農場を訪れた若きポルノ映画撮影隊6人が殺人鬼の恐怖に直面……という設定は『悪魔のいけにえ』直系ホラーだが、スプラッターを強化しつつ、ドラマはありきたりの展開を突破する。
まず殺人鬼が高齢の老夫婦であることが面白い。加えて、老妻の若さに対する羨望を、底なしの心の闇としてとらえる。サイコな恐怖は惨殺のバイオレンスと密に結びついているのだ。
ホラーの分野で台頭するもイマイチ、ブレイクしきれなかったタイ・ウェストだが、A24の製作下でやりたいことをやりきり、ひと皮むけた感がある。70年代ホラーへのオマージュもふんだんに盛り込まれ、お腹いっぱい。ホラーファンは、とにかく必見!
じわじわと緊張感を高めていく
確信犯で作ったB級映画。この手の古い映画へのオマージュも見て取れる。成人向け映画を意味する「X」をタイトルに選んだことが示すように、前半はかなりポルノの要素が強い。その安っぽい感じがホラーとほどよく馴染んでいる。後半には強烈なバイオレンスが待ち構えており、スラッシャー映画っぽくなっていくのだが、そこまでじわじわと緊張感を高めていくやり方もうまい。静かなオープニングシーン、時々差し込まれる潜在意識に迫るような短いショットなど、ビジュアルもスタイリッシュ。しかし、びっくりして飛び上がりそうになるシーンはあっても、あまり怖くはない。
ホラー映画は、この時代がよく似合う
自主映画でポルノを撮影するチームというシチュエーションは、現代に設定したら難しかったはず。1970年代で描くことで、どこか自由で牧歌的ファンタジー感も漂い、ありえないレベルの殺人鬼にも説得力を与えるから、あら不思議。このところ70年代回帰の作品が目につくのは、何かと表現の自由に気遣う現代社会からの解放欲求も要因だったり?
ホラー映画ファンならオマージュ発見の雨あられ状態だが、それらを強調しないで物語にスムーズに入れ込んだところに、監督の知的センスが感じられる。絶叫級の怖さというより、想像力を刺激し、納得のエグいシーンが提供される印象。
ある重要な仕掛けは、2作目への伏線として大いに納得。
1970年代のあれこれがギッシリ詰まってる
1970年代的アイテムのあれこれがギッシリ。その全部盛り感が楽しい。画面の色調は黄色っぽい当時仕様。基本的には、アメリカの田舎、人里離れた一軒家という『悪魔のいけにえ』に代表される当時のホラー映画の定番。そこに、家庭用ビデオ黎明期のポルノビデオの製作現場、女優を目指すストリッパー、意識の高い自主制作映画の監督、フリーセックスを実践するカップルなど、いかにも当時らしいアイテムが盛り込まれる。その中で、ここだけ'70年代ベッタリにならないのが、ミア・ゴス演じるヒロインの存在感。メイクもファッションも当時そのもので、眼差しは現在。これが'70年代に撮影された映画ではないことに気づかせてくれる。