フラッグ・デイ 父を想う日 (2021):映画短評
フラッグ・デイ 父を想う日 (2021)ライター3人の平均評価: 3.3
いい具合に枯れたペン節に男泣き
『インディアン・ランナー』の犯罪劇的なスリルに、『イントゥ・ザ・ワイルド』の米国原風景への回帰が融合したというべきか。国家vs個というテーマを含め、S・ペンが取り組みたい題材であるのは明白。
新味は無軌道な父親の暴走と、彼を憎みたくても憎めない娘の葛藤を、軸に置いたこと。父を罵り、冷たくするも、なお切れない縁を、ぎりぎりのレベルで描いた点にペンの意欲を見る。
ペン親子の共演も説得力の点で効果を発揮し、涙を流す場面の画力には凄まじさを覚える。ペンの盟友ともいえるエディ・ヴェダーが提供した、楽曲の切実な響きも忘れ難い。映画人としてのペンの、味のある枯れ具合が、なんとも言えずシミた。
父娘の愛にリアル感たっぷり
ショーン・ペンが監督をするのはこれで6度目ながら、主演も兼任するのは初めて。ワルで父親としても夫としても無責任だが、クラシック音楽など高尚な趣味を持ち、チャーミングなこのキャラクターは、役者として魅力的だったに違いない。事実、見せ所はしっかり作っているし、しかも話は彼と娘の関係が中心で、実の娘ディラン・ペンとのドラマチックなシーンもたくさんあるのだ。母親似のルックスを持つディランは、女優としても母親同様じっとしていても存在感があり、これからの可能性を感じさせる。しかし、話は同じことの繰り返しが多く、音楽に頼りすぎで、ややスローな感じ。ビジュアルも、美しいものの、既視感がある。
子供の頃の想いを描く映像が、甘く美しい
子供の頃に父親が大好きで彼に愛されたいと思った少女が、父と離れて成長した後も、子供の頃に抱いた父への想いを抱き続ける。そんな彼女が回想する、子供の頃に父と過ごした日々を描く映像が甘く美しい。陽光に輝く水面。花火。流れる光とみずみずしい色。これらの光景があまりにも美しいので、ヒロインが過酷な日々と過ごしているときにも、彼女の世界が悲惨にならない。視点によっては悲痛な出来事が、ロマンチックに輝く。
主演のディラン・ペンは、監督・共演のショーン・ペンと元妻ロビン・ライトの娘で、両親は彼女が10代の頃に離婚している。そんな背景を思うと、映画とはまた別のもう一つの父と娘の物語も読み取りたくなる。