シスター 夏のわかれ道 (2021):映画短評
シスター 夏のわかれ道 (2021)ライター3人の平均評価: 4.3
大事にされる息子と犠牲を強いられる娘
看護師として働きつつ、医師になるべく大学院進学を目指す女性が、疎遠だった両親の死によって弟の存在を知る。親を亡くしても悲しむ様子などなく、幼い弟のことも邪魔だとして養子に出そうとするヒロイン。なんて薄情な…と初めは戸惑うが、次第にその理由が見えてくる。息子は跡取りとして大事にされ、娘は家族の犠牲にさせられる。女の子ゆえ過小評価されて育った彼女は、自力で人生を切り拓いて両親を見返そうとしていたが、しかしその両親が一人っ子政策の廃止後に息子をもうけていた事実に深く傷ついたのだ。これは中国の物語だが、日本でもこうした男尊女卑の根強い地域は少なくない。中国社会の負の一面を描いた映画として興味深い。
自分の頭と意志で「新たな選択肢」を創出すること
ピンク・フロイド『狂気』のTシャツを愛用している不機嫌な顔の主人公(チャン・ツィフォン)のライオットガール感が基本的なトーンとなる。年齢設定や環境こそ違えど、キム・ボラ監督の『はちどり』(韓国)と重なる点が多い。物語背景にあるのは『在りし日の歌』等で描かれた中国の一人っ子政策ながら、家父長制の価値観の呪縛や弊害は世界共通の主題/課題だ。
自己実現か、家族(子育て)か――との葛藤はマギー・ギレンホール監督の『ロスト・ドーター』等とも通じつつ、イル・ルオシン監督(86年生)の提案は「二者択一、以外を考える」こと。新しい第三の道の模索こそが、時代の先端に立つ問題意識の在り方のように思う。
「一人っ子政策」が生んだ深い闇に切り込む
疎遠だった弟と暮らすことになった少女の成長物語というと、ありがちないい話に見えるが、じつは中国大陸で8年前まで実施されていた「一人っ子政策」と未だに根強い「家父長制」が生んだ深い闇に切り込んだ一作。つまり、亡き両親に望まれなかったヒロインの元に、両親に愛された弟が転がりこむ地獄のような状況のうえ、弟役の子役の芝居が妙に巧いこともあり、チャン・ツィフォン演じるヒロインが気の毒すぎてしょうがない。『少年の君』と比較されがちだった青春映画でデビューを飾ったイン・ルオシン監督だが、本作では親族のキャラ描写に至るまで、なかなか優れた脚本家とともに、正当な評価を得られたのは喜ばしい。