マッドゴッド (2021):映画短評
マッドゴッド (2021)ライター4人の平均評価: 4.3
グロテスクで悪夢的な世界に圧倒される怪作!
いやあ、これはまた凄いものを見せて頂きました。『スターウォーズ』シリーズや『ジュラシック・パーク』などで知られる特撮マン、フィル・ティペットが、クラウドファンディングで資金を集めて完成させた、ライフワークとも呼ぶべきストップモーション・アニメ。これといって明確なストーリーは存在しないのだが、まるでヤン・シュヴァンクマイエルとデヴィッド・リンチの悪夢を同じ釜に混ぜ、サイバーパンクやゴシック・ファンタジーなどのエッセンスで味付けしながら煮詰めたような、魑魅魍魎のうごめくグロテスクなビジュアル世界に圧倒される。製作期間30年という執念の賜物。異形の怪作と呼ぶよりほかにない傑作である。
特殊効果の神による執念と狂気の84分
これまで約10分程度の短編が3本発表されたフィル・ティペットによるストップモーションアニメが長編として完成。地底に派遣されたアサシンの地獄めぐり以外、物語らしい物語も、セリフらしいセリフもなし。エログロ入り混じった世界観の中、『ロボコップ』のED-209らしきマシーンも登場する遊び心もありながら、『2001年宇宙の旅』のモノリスらしき物体がキーワードに。つまりは体感型映像集であり、痛烈な社会批判とともに、『JUNK HEAD』どころじゃない特殊効果の神による執念と狂気が込められている。それだけに人類最後の男を演じるアレックス・コックスによる実写パートが混入されていることに疑問が残る。
"物"が動く。ストップモーション・アニメの至福
ただただストップモーション・アニメの醍醐味に浸らせてくれる至福の1作。このジャンルの伝説的名手フィル・ティペットが、1990年の『ロボコップ2』の後で着想し、数シーンを撮影した後に中断していた作品を、約20年後にボランティアスタッフたちと共に再始動させ、生み出したのが本作。
画面に次から次へと出現するのは、ギョロギョロ動く眼球や粘着質の液体などで彩られた悪夢のような光景なのだが、それが実際に手でさわれる"物質"として存在し、並々ならぬ情熱によって"動き"を与えられているということが伝わってきて、ある種の温もりを感じさせる。醜くおぞましいのに愛らしい。この技法ならではの妙味を堪能したい。
恐ろしくも愛おしい、魔界トリップさせる映画体験
「スター・ウォーズ」初期3部作の時代から特殊効果の“神”の地位を築いたフィル・ティペット。大々大好きなストップモーションを全面に使い、グロかわいいキャラ、おぞましい光景を、まるで絵巻のように完成した本作は、異世界トリップとして至福の時間を与えてくれる。
地獄へ誘われるごとく主人公がどんどん地下の世界に入っていくが、セリフほぼゼロで物語らしい物語は存在せず、ひたすら奇怪を極めるビジュアル、手作り感のある動き、要所の実写での俳優たちの不思議演技に身を任せればいい。次々と変幻する世界にまったく飽きることもない。
子供時代に怖かった「原体験」や、大人になって見なくなった夢も甦ってくる、魔物的な大傑作。