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怪物 (2023):映画短評

怪物 (2023)

2023年6月2日公開 126分

怪物
(C) 2023「怪物」製作委員会

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.6

相馬 学

かいぶつたちのいるところ

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 いわゆる“羅生門”形式で、3つの視点で事実が浮かび上がる。そういう意味ではサスペンスとして楽しめるが、そこは是枝作品、主眼は別に置かれている。

 母の視点から児童虐待、教師の視点から学校のお役所体質と、大人の問題が浮かび上がり、一方で子どもの問題であるいじめがある。しかし、それらの訴えを声高に感じないのは、子どもの真っすぐなまなざしが強調されているからだろう。

 大人の目は曇るが、先入観のない子どもの目は迷いがあろうと晴れている。いろいろと考えさせられる要素はあるが、まずはこの凛々しき魅力を体感したい。必見。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

坂元脚本として最高作とは言い難いものの…

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

正直言って僕が苦手とする是枝作品だが、坂元裕二の脚本を得て明らかに変化が感じられる。同じ事件が三つの視点から描かれる手法はミステリとして決して珍しくないが、エモーショナルな展開が素晴らしく、物語は第三部に向かって見事に高揚していく。クィア・パルムを受賞した理由は詳しく言えないが、確かにそういう要素も存在している。しかし、名だたる出演者を差し置いて、見終わったあと二人の姿しか残らないような子役二人の演技がやはり圧倒的。これは監督の子役使いの巧みさではあるだろう。坂本龍一の禁欲的な音楽と、近藤龍人の素晴らしい撮影も見どころ。個人的には間違いなく是枝の最高作だと思う。

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大山くまお

「怪物」とは誰か、ではなく、「怪物」とは何か

大山くまお 評価: ★★★★★ ★★★★★

ぽっかりと空いた巨大な穴のような中心を抱えた地方都市を舞台に、とある事件を起こした子どもたち、母親、教師、学校の人々などを複数の視点で描く。同調圧力、いじめ、悪意のある噂、事なかれ主義、謝罪になっていない謝罪など、現代の日本を象徴するような煮詰まった空気の中で、「普通」とか「幸せ」とか「家族」とかにすり潰されようとしている人たちの姿に胸が痛くなる。これはたぶん、属性の話ではなくて、魂の話なんだと思う。「怪物」とは誰か、というより、「怪物」とは何か、を考えさせる映画。晩年、子どもたちを応援する活動を続けていた坂本龍一の音楽が、「行き止まり」の先へ駆けていく彼らを後押ししているように感じた。

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くれい響

あらしのあさに

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ある男』とは別のアプローチでシングルマザーを演じる安藤サクラを始め、とてつもない芝居を魅せつけ、いろんな意味で観る者の心を動かす永山瑛太、田中裕子にも当てはまる、劇中のキーワードでなる“怪物”。そこに母親から教師、そして…といったように、『羅生門』スタイルで“ことの真相”が明らかになっていく、坂元裕二らしいトリッキーな脚本がプラス。是枝監督の本領発揮ともいえる後半パートに関しては、それまでの流れを踏まえると失速感も否めないが、「あらしのよるに」を思い起こさせる子どもたちの関係性が肝に。そのため、アニメ版でオオカミ役だった中村獅童のキャスティングは、かなり興味深く見えてくる。

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なかざわひでゆき

カンヌ受賞も大いに納得の見事な脚本に感服する

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 我が子の異変に気付いた母親、生徒への体罰を疑われる若手教師、事態を穏便に済まそうとする学校。ここで話の方向性が読めたと思ったら大間違い。やがて「藪の中」のごとく各人の異なる視点から意外な真相が浮かび上がり、物語は全く予想外の展開を見せていく。この映画の構造そのものが体現するように、人間誰しも先入観や偏見からは逃れられない。特に大人は下手に人生経験があるからこそ、目に見える情報と思い込みで他人を勝手にジャッジしがちだが、しかし個人の経験と知識など世界の広さに比べれば些細なもので、世の中には様々な事情を抱えた人たちがいる。だからこそ対話と理解が必要であることを描いた脚本がとにかく見事だ。

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村松 健太郎

是枝監督、新境地へ

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

海外での映画製作も経験した是枝監督がこのタイミングで外部脚本で映画を撮るというのは嬉しい驚きです。しかも坂元裕二と組むというのは意外でありながら、その一方でどこか納得の組み合わせのような気もします。”羅生門的な構造”の是枝作品はとても新鮮で、そういう意味でも外部脚本を採り入れたことはとても効果的だったと言えるでしょう。もちろんオリジナル脚本作品も楽しみですが、時々こういう外部脚本作品もあるといいですね。二人の子役は映画を喰う存在感で、監督の子役発掘&指導の手腕には唸ります。既存の曲が多いですが教授の曲がまた見事にハマります。

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斉藤 博昭

作り手の攻め姿勢で映画としてシンプルに傑作も違和感は残るかも

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

これほどまで、今から観る人のために核心に触れるべきではないと感じ(だからここでは触れない)、一方で核心に触れないとレビューしづらい作品も珍しい。
重要なトピックの描き方には、おそらく賛否や違和感も出るかもしれない。しかし脚本家や監督も、そこを覚悟で作ったと信じたい。いくつか消化しきれず、ぼやけた要素もありつつ、全体には攻めた映画として傑作。

秀逸なのは、思い詰めた人物に、目の前の人たちの言動や表情がどう映っているのか。その映像表現/役者の演技が凄まじい域に達していること。
坂本龍一のメロディは、『シャイニング』でも引用されたリストの「死の舞踏」を思わせ、不穏と安堵を行き来させる効果絶大。

この短評にはネタバレを含んでいます
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