FALL/フォール (2022):映画短評
FALL/フォール (2022)ライター4人の平均評価: 3.8
高所恐怖症の方はご注意を!
アメリカで予想外のサプライズヒットを記録した作品だが、なるほど、決して派手さはないけど面白い。ロッククライミング中の事故で夫を亡くして悲嘆に暮れる女性が、親友に誘われて地上600mのテレビ塔へ登ったところ、老朽化したハシゴが崩れ落ちて頂上に取り残されてしまう。恐怖に打ち勝てば悲しみを乗り越えられる!という親友の妙なポジティブ理論は大いに疑問だが、しかし携帯電話も通じなければ水や食料もなし。空腹と渇きと灼熱の太陽に襲われ、そのうえ飢えたハゲタカにまで攻撃されるという状況はかなりスリリング。しかも、IMAXで撮影された頂上映像がまたなかなかの迫力。高所恐怖症の方は要注意だ。
『海底47m』のプロデューサーが仕掛ける「地上600m」
『タイム・トゥ・ラン』『ファイナルスコア』の職人監督、スコット・マンがワン・シチュエーションものを手掛けるのは意外だが、『海底47m』のプロデューサーなので、妙に合点がいく「地上600m」の恐怖。そのため「動画配信者だから!」で話を進めていく力業に、ジワジワ効いてくる伏線や人間関係、さらに『アドリフト 41日間の漂流』と同じ状況に陥るサバイバルあるあるなど、かなり手堅い作り。同じ極限状態でも『スターフィッシュ』と違い、今度は陽キャな相棒を演じるヴァージニア・ガードナーがとにかく魅力的。オチにかけて駆け足すぎるのは勿体ないが、“お股がヒュン”となる劇場体感型として十分楽しめる。
「リアル超え」の狂った臨場感!
インセイン&クレイジー! 『海底47m』チームによる製作らしい「一点集中型」で娯楽の凝縮力を出す、ガチで身がすくむ高所恐怖スリラーの快作だ。Wヒロインが挑むのは、砂漠にそびえ立つ600m超えのボロい超高層鉄塔。一目でアウトと判る危険物件だが、動画撮影込みで錆びたハシゴを登り、頂上に取り残される吃驚の展開。足場はものすごく狭い限定空間、落下すれば当然即死。極限にもホドがあるワン・シチュエイションで緊迫感MAX!
スコット・マン監督はドキュメンタリー『フリーソロ』等も参考にしたらしいが、作品設計としてはダニー・ボイルの『127時間』に近いかも。つっこみ処は多々あれど、ある種「本物」より生々しい!
この怖さは、身体感覚を直撃する
高所から落ちそうで怖い----この恐怖感は、ホラー映画のような心理的な恐怖とはまったく別の、もっと身体的で本能的なもの。自分のいる場所は安全だと分かっているのに、ただ見ている画面に映し出されるものが、ここまで身体的な感覚を刺激する力を持っていることに驚かされる。しかも主人公たちの行動がかなり無謀で、途中で何度も"もう止めろ~!"と叫びたくなる。
とはいえはたして身体的恐怖だけで映画1本が持つのかと思った頃から、しっかりいろんな要素の仕込みあり。塔の上からどうやったら生還できるのかという試行錯誤の数々あり、一緒に登った女性2人の人間ドラマありで、最後まで飽きさせない。