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ボーンズ アンド オール (2022):映画短評

ボーンズ アンド オール (2022)

2023年2月17日公開 131分

ボーンズ アンド オール
(C) 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

カンニバリズムをテーマにしたグァダニーノ版『地獄の逃避行』

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 生まれ持った人肉食の欲求を抑えることが出来ず、それゆえ土地から土地へ転々として暮らす少女が、初めて知り合った「同族」の少年と恋に落ち、2人だけのささやかな幸せを求めて放浪の旅を続ける。さながらルカ・グァダニーノ版『地獄の逃避行』。『サスペリア』ばりに容赦のない残酷描写に思わずひるんでしまうものの、しかし作品全体としてはホラー映画というよりも、日陰者のマイノリティたちの孤独や哀しみや喜びや愛情を詩的なタッチで描いたロードムービーに仕上がっている。ある意味、『君の名前で僕を呼んで』と対になる作品とも言えよう。カンニバリズムを題材にした作品は少なくないが、こういう料理の仕方もあるのかと驚かされる。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

純愛ロードムービーとジャッロの融合

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ぼくのエリ 200歳の少女』ばりに切ない異形の純愛物語に、『地獄の逃避行』などのアメリカン・ニューシネマを思い起こさせるロードムービー、そしてイタリアの鬼才ならではといえるジャッロの融合。『サスペリア』を再構築したルカ・グァダニーノ監督らしい“いびつな”一作だ。ティモシー・シャラメやジェシカ・ハーパーら、グァダニーノ組が生み出す静寂さの中、不穏な空気を醸し出すマーク・ライランスの異物感に圧倒。またヒロインが食人鬼ジェフリー・ダーマーやエド・ゲインを生んだウィスコンシン州出身であることや彼らと状況が重なる『ミディアン』(つか、原作の「死都伝説」)のオマージュなど、細部のこだわりに★おまけ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

芸術か、悪趣味か。観る人によって答は変わる

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

恋愛映画であり、ホラーであり、ロードムービーであり、自分探しの青春もの。それをこんな形でミックスするとは。しかし、人が人を食べるという衝撃を乗り越えてしまったら、実はそれらのジャンルのどれにおいてもそれほどしっかりしたものはないと気づく。とは言え、マーク・ライランスは間違いなくパワフルだ。彼はいつも、何をやらせてもすばらしいが、この映画ではとにかく強烈。彼が出てくるたびに怖くて緊張してしまい、観終わってからもしばらく頭を離れない。野心を感じる作品であるのは確かながら、これを芸術と呼ぶのか悪趣味と呼ぶのかは、観る人によって意見が分かれるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

2人が旅を始めると、世界の色が濃度を増す

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 思った以上にロードムービー。他人には理解されない特異な性質を持つ2人は、どこにも所属できず、移動し続けるしかない。そんな2人が出会って旅を始めると、昼も夜も、世界の色が濃度を増す。撮影は、ジョージア映画で活動していた29歳の新鋭アルセニ・カチャトゥラン。2人が車で通り過ぎる、米中西部の建物が少なく空が大きい風景が、濃い色で目に焼き付くのは、それがその時の2人に見えているものであり、彼らが、今見ているものがもう2度と訪れることのない場所の、再び見ることのない色と形であることを、無意識のまま知っているからだろう。善悪とは関係なく、どうしてもそうあってしまうものにどう向き合うか、それだけがある。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

ジャンルミックス的な“『新・地獄の逃避行』”

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『君の名前で僕を呼んで』や『僕らのままで』のリリシズムと愛の多様性、『サスペリア』の禍々しさを掛け合わせたグァダニーノ監督の傑作。1988年、レーガン時代末期を背景に、「人喰い」という吸血鬼の宿命を肥大させた様なアウトサイダーの男女が逃避行を繰り広げる。ニューシネマの神話的変奏と言うべき米中西部のロードムービーを創造した。

同時にグァダニーノの本質は変わりない。主題はアイデンティティの探究。覚醒した個と社会的制度の衝突。グランジ以前の時代ゆえ、ティモシー・シャラメはキッスの『地獄の回想』(83年)を流す。劇伴はナイン・インチ・ネイルズのレズナー&ロス(最近は『エンパイア・オブ・ライト』も)。

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斉藤 博昭

人間を食べたい衝動と、悩める青春ストーリーの味わい深い合体

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

本能的に人間を食べずにいられない。そんな主人公たちなので当然ながら該当描写が出てくるものの、あくまで重要シーンに限られ、ホラー的味わいは少量。むしろ自分探しのロードムービーとして流れに乗っていけるかと。同族の純愛映画としての切実さも過剰にならず好印象。
他の多くの人と明らかに違う悩み、同じ境遇の者との出会い、経験豊富な先輩からの学び…と、描かれる要素は青春映画そのものなので、「食人」もひとつのモチーフへ変わっていく。どういう相手なら食べていいか。そのルールも納得しやすい。
つねに虚ろな目のシャラメが役にハマるが、マーク・ライランスのヌルッとした不気味さがトラウマ的に脳裏にやきつく。やはり天才!

この短評にはネタバレを含んでいます
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