メグレと若い女の死 (2022):映画短評
メグレと若い女の死 (2022)ライター3人の平均評価: 3.7
犯罪が絶えない都市と、そこに宿る無数の孤独
メグレ警視といえばミステリー小説ファンにはおなじみのキャラだが、まず観客が目にするのはパイプをふかせない、人生の黄昏を迎えた姿。併せて、高級ドレスをぎこちなくまとおうとする若い女性の姿が。このオープニングに、引きこまれる。
ルコント作品らしく、ドラマ自体はミステリーよりも切ないまでの孤独にフォーカス。名前を知られぬまま惨死した女性と、真相追及のために彼女の気持ちを理解しようとするメグレ。若さの孤独と老いの孤独が交錯する。
ドパルデューの巨体をどこか寂しく見せ、一方で官能を匂わせる、そんな映像表現も味わい深い。ルコント監督の作品は久しぶりだが、90分で無駄なく収める職人的手腕はさすが。
フレンチ・ミステリーの古典をパトリス・ルコントが映画化!
パトリス・ルコント久々の新作は、日本でもお馴染みの犯罪小説「メグレ警視」シリーズの映画化。身元不明の若い女性が他殺体で発見され、不愛想だが情の深い名警視メグレが事件の真相に迫るわけだが、ストーリーは謎解きよりも背景に焦点が当てられている。捜査を進める過程で浮かび上がるのは、夢や希望や自由を求めて田舎からパリへ上京した若い女性たちを待ち受ける厳しい現実、無防備な彼女らを食い物にする大都会の卑劣な捕食者たち。そんな哀れな女性たちの身の上に、メグレ警視は亡き愛娘の姿を重ねる。ダークなリアリズムと抒情的なセンチメンタリズムの配合が絶妙。『ルシアンの青春』のオーロール・クレマンの健在ぶりも嬉しい。
1953年パリ、メグレ警視が寒い街を彷徨う
1953年のパリ。長いコートを着ても肌寒い街。胸に満たされない想いを秘めて街路を歩き回る、もう若くない男。そうした情景を描くことが、『仕立て屋の恋』のパトリス・ルコント監督の狙いなのではないか。
映画は、ジョルジュ・シムノンの名作ミステリー小説、メグレ警視シリーズを原作に、ある謎の死の背景が解明されていく謎解きミステリーで、意外な真相が待っている。しかし、犯人探しよりも、それを取り巻くさまざまな情景が味わい深い。メグレ警視が見上げる空。彼が、捜査の過程で対面する人物と交わす、事件とは直接関係のない会話。メグレ警視による、まるで詩のようなモノローグが、映画が終わった後も余韻を残す。