ファルコン・レイク (2022):映画短評
ファルコン・レイク (2022)ライター3人の平均評価: 3.3
繊細でナチュラル、そしてメランコリック
ひと夏の出来事、淡い初恋を描く、繊細でメランコリックな作品。性に興味を持ち始めるけれど、まだそこに行くのは怖い、微妙な年頃。14歳の少年から見たら大人に見える年上の少女も、幽霊ごっこをして遊ぶ子供っぽさを残している。ふたりの会話も、ふたりの距離が近づいていく過程も、ふたりを演じる若い俳優たちもナチュラル。ただ、エンディングはこれがベストなのかわからない。大自然はこの映画の重要なキャラクターで、ビジュアル、音響は効果的。16mmのフィルムでとらえた映像はノスタルジックで、美しい思い出の1ページを見ているような気にさせる。ストックホルム出身のシダ・シャハビによる音楽もぴったり。
ほの暗くぼんやりとしてやわらかい
監督が、16mmフィルムにこだわって創造した、"世界の質感"が本作の醍醐味。世界は常に、どこかほの暗く、やわらかく、ぼんやりとして、とらえがたい。この物語の主人公である、もうすぐ14歳になる少年にとって、世界はそのように存在する。家族と一緒に夏を過ごす別荘、森の中の湖、そこで再会した昔から知っている少女は、16歳になって急に別人のように見える。その少女の顔はほとんど映らず、彼女の後頭の風に吹かれて舞う髪の毛、一緒に入った浴槽で彼女の背中を流れ落ちる水滴など、少年が見つめてしまうものが映し出される。少年にとって、自分の気持ちもぼんやりとしてとらえがたい。そんな、ある時期だけの世界がここにある。
ひと夏の甘酸っぱい時間がティーンホラー的な空気に包まれる
日本でも2019年に邦訳が出たバンドデシネ『年上のひと』の映画化だが、この種の源流はコレット原作『青い麦』になるだろう。ただし本作はフランス語圏でもカナダのケベックに場所を移し、舞台も海辺ならぬ湖畔。仏語と英語の混在はコミュニケーションの誤解や不全を生む装置ともなる。
そしてクロエ(『うたかたの日々』を連想)の心象と絡む様な全編に漂う死の匂い。UFO系怪事件「ファルコン・レイク事件」のイメージも有りか? ほとんど『悪魔のいけにえ』的な16mm撮影の粗さが未分化で不安定な世界に同期している。俳優として知られるシャルロット・ル・ボンの長編監督デビュー作。日本の自主の若手とも共振する感性と才能。