カンダハル 突破せよ (2022):映画短評
カンダハル 突破せよ (2022)ライター3人の平均評価: 3.7
複雑な中東情勢もきちんと描いた良質なB級アクション
アフガニスタンで潜入ミッションの最中に正体をバラされたCIAの凄腕スパイが、イランやパキスタン、タリバンなどの追撃をかわしつつ脱出を試みる。『エンド・オブ・ステイツ』『グリーンランド-地球最後の2日間-』に続く、ジェラルド・バトラー主演×リック・ローマン・ウォー監督のコンビ作。基本はハリウッド映画らしい痛快なスパイ・アクション映画なのだが、しかしイスラム教国やイスラム過激派を一方的に悪魔化することなく、一筋縄ではいかない複雑な政情を念頭に置いた描写がなされているのは良心的だ。中東地域でアメリカが犯してきた罪にもそれとなく触れている。主人公と現地通訳の友情も胸アツ。B級アクションと侮るなかれ!
紛争スクランブル交差点・アフガニスタンを知ろう
イランの核施設を爆破したCIA(に雇われたイギリス人)エージェントが次の任務地のアフガニスタンで危機に陥り、在米アフガン人の通訳とともに脱出を図るアクション。イランとパキスタンに挟まれ、国内はタリバンが支配しているが、タジク人の軍閥も跋扈し、アメリカが空爆する紛争スクランブル交差点・アフガニスタンの事情がわかっていないと理解が難しい(ついでにヘラートからカンダハルまでの地理も)。パキスタンとタリバン、アフガニスタン(元国軍)特殊部隊とイギリスのそれぞれ近しい関係も頭に入れておこう。宗教や国別に善悪が別れておらず、ラストはかなり複雑な気分になる。「現代の戦争に勝利はない」という言葉が重い。
スリリングな脱出アクション……だけでは終わらない
敵だらけのアフガニスタンからの脱出を図るCIA工作員の奔走。G・バトラーがこの主人公を演じるとなれば、アクション色が濃厚になるのは想像がつくが、それだけに終わらない妙味がある。
主人公と逃避行を共にするのが現地通訳を務める米在住アフガニスタン人で、たがいに理解を深めていく展開が面白い。思想や目的の違いで険悪になりもするが、帰国という共通の目的で結ばれた彼らの共闘は、シリアスなバディムービーの様相を呈する。
ガザの戦乱がニュースになっていることもあり、過激派、体制派、日和見派、穏健派などなどが入り乱れる、複雑なイスラム世界の一端を知る上でも見ておきたい力作。