燈火(ネオン)は消えず (2022):映画短評
燈火(ネオン)は消えず (2022)ライター3人の平均評価: 4
消えゆく古き良き香港へのオマージュ
かつて、ところ狭しとネオン看板で埋め尽くされた煌びやかな夜景は香港名物のひとつだったが、しかし’10年の法改正によってその殆どが撤去されてしまった。本作の主人公は、そのネオン職人だった夫を亡くした初老の未亡人。時代遅れの職業にこだわる不器用な夫に不満のあった彼女だが、しかしいざ夫がいなくなると恋しさばかりが募り、まだ修行途中だった夫の弟子と力を合わせて工房を守るべく悪戦苦闘する。失われゆく「古き良き香港」へのオマージュをたっぷりと詰め込みつつ、移り変わる時代の中で伝統技術を継承することの難しさと大切さを描いた作品。その佇まいだけで人生の年輪を感じさせるシルヴィア・チャンは相変わらず巧い。
失ったことで、初めて分かる有難さ
『スリ』を撮ったジョニー・トー監督は「香港の消えゆく街並みを残したかった」と言ったが、本作が長編デビュー作のアナスタシア・ツァン監督からの同様の思いが伝わってくる。職人気質のめんどくさい夫も、煌びやかなネオン看板も、失ったことで、初めて分かる有難さ。東京国際映画祭での原題寄りな『消えゆく燈火』から、ザ・スミスの楽曲ぽい英題(A Light Never Goes Out)寄りのタイトルに変更した件は素晴らしいが、オーストラリア移住を考える愛娘のエピソードなど、ドラマとしての甘さが目立ち、ノスタルジーに浸りすぎて、やや単調に。いわゆるハートウォーミングな“いい映画”で終わっているのは惜しまれる。
変わるものと変わらぬもの、そして、そこに生きる人
20年近く香港に行っていないため、名物のネオンが激減したことにショックを受けるも、変わりゆく時代と変わらない人間の魂に心を動かされる。
ネオン職人の夫に先立たれた未亡人の心の変遷を軸にした物語は、亡き夫への愛情のみならず葛藤をも少しずつ明かしていき、夫婦関係の機微をリアルに伝える。ヒロインと周囲の人々との交流を少々急いで畳んだ感はあるが、それでもラストはグッときた。
『悪漢探偵』から40年、主演のS・チャンは素敵な年の取り方をしているなあ…などと思いつつ、時代の変化について考えた。街と人の関わりをとらえた味のあるヒューマンドラマ。