ゴールド・ボーイ (2023):映画短評
ゴールド・ボーイ (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
星乃あんな、というか、演ずるヒロインの“心情”に胸がつまる
最初の“違和感”が本作の罠の始まり。発端は、実業家の婿養子である青年(岡田将生。抜群にいい!)が実行した殺人計画だ。それを偶然、ティーンの三人組が動画に収め、一番臆病そうな少年(羽村仁成)が、脅して大金をせしめることを思いつく。なぜそんな気が起き、大胆な行動に出たのか……見事に上書きされてゆくのが快感!
サイコな殺人犯に、(各々問題を抱えた)ピカレスクな子供たち。舞台が沖縄で、プロデューサーの吉田多喜男、撮影の柳島克己ほか、元「北野組」の主軸が名を連ね、豪腕・金子修介監督と組んで『3-4X10月』とは角度の違う“逆転劇”、『ソナチネ』とは別の忘れ難い“夏休み映画”を作ったことに快哉を叫んだ。
貧すれば鈍する日本社会の今が浮かび上がる良質な犯罪スリラー
大企業の会長夫妻を、その娘婿が崖から突き落として殺害。用意周到な完全犯罪のはずだったが、しかし偶然にも中学生の少年少女が一部始終を動画撮影しており、その証拠動画と引き換えに多額の現金を要求してくる。狡猾で計算高い金の亡者と、複雑な家庭事情を解決するために金が欲しい子供たち。両者のあまりに危険な駆け引きを主軸としつつ、その背景に衰退の一途をたどる日本社会の実相が浮かび上がる。広がる格差と深刻化する貧困。大人たちは金に振り回されモラルを失い、その背中を見て育つ子供たちもまた怪物化していく。邪悪な冷血漢を演じて相変わらず巧い岡田将生だが、それを完全に食ってしまう子役・羽村仁成は大変な逸材だ。
『DEATH NOTE デスノート』監督によるイヤミス
どこか平凡なタイトルに、崖から始まる2時間ドラマのような冒頭と、なかなかルックが微妙な一作ではあるが、じつはサイコパスな殺人鬼・岡田将生VS.脅迫して一攫千金を企む羽村仁成の心理バトルを描いたイヤミスであり、次々と登場人物が死んでいく。そういう意味では、監督が『DEATH NOTE デスノート』の金子修介というのは適任であり、腹を探り合う2人の姿がときどき月とキラにも見えてくる。先に映像化された中国のTVシリーズ「バッド・キッズ 隠秘之罪」のダイジェスト感も否めないが、金子監督が得意とする青春映画としての見応えもあり、中国版同様、羽村を始め3人の少年たちの悪童っぷりから目が離せなくなる。
ジュブナイルサスペンスの傑作!
多くのジャンル(怪獣映画まで!)を手掛けてきていることで、オールジャンルいける人だという思いがあった金子修介監督が”そういえば特殊なティーンエイジャーの映画の達人だった”ということを思い出させてくれる快作でした。厄介な怪物3人組、特に羽村仁成の顔と名前は覚えておいた方が良いかもしれません。もう一方の主役である岡田将生。端正な顔立ちもあって”好青年キャラ”を演じることが多いですが、実はこういうひたひたと迫ってくるような妖しい役柄が巧くはまる。久しぶりに気持ちの悪い岡田将生を見れて嬉しかったです。サスペンスとしても最高。
クライム・サスペンスだけど13歳の思春期の物語
中国のベストセラー作家、ズー・ジンチェンの小説が原作のストーリーが面白い。大人の犯罪者を、13歳の中学生が脅迫するという設定。知性派サイコパス同士の頭脳戦。そうしたクライム・サスペンスの刺激、先が読めないストーリーの興奮に加えて、そのうえ13歳の少年少女のキラキラした初恋物語にもなっているところが魅力。
そうした物語の中に、映像として印象に残る光景がいくつもある。女の子がふと振り返って見る、海の青さ。男の子の背景で、青空の遠くを横切っていく飛行機。13歳の女の子の手足の、まだ柔らかさを帯びていない直線的な形が、その時期にしか持てない強く真っ直ぐな感情とシンクロしている。