インフィニティ・プール (2023):映画短評
インフィニティ・プール (2023)ライター4人の平均評価: 3.5
シュールにして悪夢的、不快指数高めのカルトなSFホラー
高級リゾートのインバウンド消費に経済を頼り切っている架空の国。現地では権力が腐敗して一般市民が困窮する一方、リッチな外国人観光客たちが傍若無人に振る舞っている。そんな国を初めて訪れた夫婦が、一部の観光客と地元警察が裏で結託して身の毛もよだつ恐ろしい「儀式」を行っていることに気付く。金と権力と欲望の三位一体によって、いとも簡単に堕落してしまう人間の醜悪さを描いた作品は古今東西少なくないが、本作はそこへ過激なエロとグロを交えつつシュールで悪夢的なSFホラーへと昇華させたところが秀逸。ミア・ゴスのキレッキレな怪演がまた強烈だ。来るべき日本の近未来像みたいな舞台設定もイヤ~な感じですな。
欲望のままに生き、慣れていくことの恐ろしさ
父デビッド・クローネンバーグの作品における偏愛の粘着性に対して、息子ブランドンが描く偏愛はドライ。『ポゼッサー』に続くこの新作でも、そのスタンスは変わらない。
そのリゾート地で観光客は何をしても許されるという極端な制度。その下で犯罪に溺れ、特権意識を満たす金持ちたちのエスカレートする行動。監督はこの状況を冷徹に観察し、ときにバイオレンスをまじえながら、衝撃的な物語を組み立てていく。
危険なゲームに溺れ、良心の呵責を持たなくなっていく富裕層の心模様は本作のもっとも恐ろしいポイント。そのひとりにふんしたミア・ゴスの怪演は怖すぎて忘れ難い。
人々が被る"仮面"の造形が目を奪う
これまでも人間の"身体性"を追求してきたブランドン・クローネンバーグ監督が、それをさらに推し進め、自分のクローンを製造し、自分の代わりに処罰を受けさせる世界を描く。自分を見失っていく主人公をアレキサンダー・スカルスガルドが熱演、彼を翻弄する女性役のミア・ゴスの演技が強烈だ。
しかし、何よりも目を奪うのは、クローン製造が習慣となった人々が悪事を働く時に被る”仮面”の、人間の顔を異様に歪ませたような造形と、まるで人肉と人皮で造られているかのような質感。彼らが、自分の顔の上に、さらに変形した人間の顔のようなものを被りたくなるところに、この映画の真のテーマが潜んでいるのかもしれない。
鬼才の息子として、別ベクトルの過激さで父を超える意欲
前2作では偉大な父の遺伝子と、自分の方向性の間でもがいてる感もあった監督だが、今回は豪快に自身の過激さを解き放った印象。
高級リゾートへの旅をきっかけに、主人公カップルがその国の暗部に足を踏み入れ、とんでもない運命に巻き込まれていく前半は、映画の流れも順調。中盤以降は、おぞましさとともに流れも転調し、リトマス試験紙のように好き/嫌いが分かれる可能性も大。
全体には、やや収拾がつかない印象もあるが、バイオレンスおよび性描写がかなり自由だし、「器具」の使い方が父親譲りで映画ファンは胸が熱くなるなど、脳裏にやきつくビジュアルは多い。そしてA・スカスルガルドは、この手の痛めつけられる役、最高にハマる!