フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン (2024):映画短評
フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン (2024)ライター3人の平均評価: 4
米国社会のリアルに基づいた良質のファンタジー
挑戦と宣伝という、米国社会を構成する相性の良くない2大要素をクローズアップしたと監督は語るが、それも納得。アポロ計画には、そのふたつが必要だったのだから。
“挑戦”を体現するC・テイタムと“宣伝”のS・ヨハンソンの、対立から共闘、ラブストーリーへ。ユーモアと軽やかさに彩られた、そんなドラマがチャーミングで引き込まれる。実話をベースにしたファンタジーとして楽しんだ。
広告の世界の極度な拝金主義を風刺的に描いた作品は多いが、そこに飛び込んだ人間のバックボーンもしっかり描かれ、シニシズムの要素は薄い。1950~60年代ハリウッド映画のオールドファッションなぬくもりあり。
歴史を変える挑戦を軽やかに、映画っぽく描いて予想外の爽快感
その題材に大して興味がない人も、観てみたらドラマやキャラの面白さを素直に楽しんでしまうかも…。そんな「映画の本質」で推したい一作。
アポロ月面着陸のフェイク画像を作ろうとする部分で、70年代の名作『カプリコン・1』と重ねつつ、こちらは一難去ってまた一難を乗り越える痛快さと爽快さが前面で、とにかく気持ちいい。
タイトルが示唆するように、50〜60年代のさまざまな名曲(しかも王道とは違うアーティストのバージョン多用)が、シーンと最高の合体をみせ、時代ならではの「ユルさ」の楽しさへの変換、前人未到チャレンジでの脇役の活躍、ロマンスの予感など、ここ数年で失われかけたアメリカ映画の美点が復活した喜びも!
スカーレット・ヨハンソンが大胆でキュートで痛快
スカーレット・ヨハンソンは、こういう古風なメイクや衣装が似合うのではないか。彼女が演じるヒロインが、1960年代の女性の社会進出が難しかった時代に、広告業界という"ウソ"がものをいう世界で、背広を着た男たちを手玉に取っていく姿が痛快。そんな彼女が"真実"に心奪われるのも定番通り。
それと並行して、当時、アポロ11号が人々の希望を象徴していたことも描き出すところが秀逸。テイタム演じる発射責任者の服が「スター・トレック」の乗組員の制服に似ているのは意図的なものだろう。
脚本は、本作が初の映画脚本となる、レネ・ルッソとダン・ギルロイの娘ローズ・ギルロイ。次回作『The Pack』も気になる。