西湖畔(せいこはん)に生きる (2023):映画短評
西湖畔(せいこはん)に生きる (2023)ライター4人の平均評価: 3.8
若手イケメン俳優ウー・レイの圧倒的な美貌も見どころ!
女手ひとつで息子を大学まで出した茶摘み労働者の女性と、そんな母親に楽をさせたいと願いつつ就職難に直面する息子が、マルチ商法や詐欺商法の泥沼にハマっていく。ちょっと考えれば詐欺と分かるはずなのに、まるで自ら進んで騙されようとするかのごとく堕ちていく人々。そこには物質主義や拝金主義が蔓延する現代中国で、社会のレールから外れたがため負け犬扱いされてきた人々の、それこそ藁にも縋るような「豊かさへの渇望」が見え隠れする。しかし、それは本当に豊かといえるのだろうか?という視点が本作の核心。時として過剰に感情的な演出が目立つ点は惜しまれる一方、若手イケメン俳優ウー・レイの圧倒的な美貌に惚れ惚れとする。
『春江水暖』で河を描いた監督が、山を描く
『春江水暖』で河を描いたグー・シャオガン監督が、本作では山を描く。河は絵巻物の水平移動で描写したが、山は掛け軸の上下移動を用いる。それはカメラの動きであるだけでなく、そこで生きる人の心のありどころの変化でもあり、山の上で樹木と共に生きていた人物が、山から降りてマルチ商法に飲み込まれる。河は人の心の移ろいを乗せて流れていくが、山はそこを動かず人と対峙する。
そうした物語の中で、マルチ商法という極端に人間的なものに組み込まれた人間と、山というものが本来持っている原初的な力が、ある時、接触する。すると日常と地続きに、別の何かが出現する。そんな神話的光景が、大きな深い山の中で描かれる。
一部で熱狂ファンもいる主演ウー・レイ、その魅力が最大限に
シャオガン監督、絵巻物のような幻想的映像美と、ゆったり流れるカメラワーク、演技未経験キャスト多用と、前作で独自の作家性を確立させたと思いきや…そこをキープしつつ、メインにはマルチ商法という超生ぐさいドラマをぶっこんできて、そのアンバランスさが逆に魅力に。人間の生命と木のそれを対比させるセリフなど一見、哲学的を装いながら、過剰にセンセーショナルな描写も入れ込み、この監督の行く先にますます目が離せなくなる。
宣伝ビジュアルは主演ウー・レイの正統派イケメンっぷりを強調しているが、そこは「宣伝に偽り、ナシ」と断言。その爽やかさ、苦悶に引き込むという点で、俳優を観る映画でもある。日本でも人気加速するか?
まさかの、マルチ商法版『レクイエム・フォー・ドリーム』
山水画ばりに息を呑む美しい光景と金に執着した人間模様を対比に描いたデビュー作『春江水暖』をアップデート! 美しい茶畑から一転、マルチ商法の世界を通し、人間の脆さや醜さを露呈していく。楽しいバス旅行の行き着く先は、この世の地獄。映像や音楽どころか作品全体が転調し、『レクイエム・フォー・ドリーム』ばりのカルトムービーに。化粧が崩れ、泣き叫ぶヒロインの姿は『ジョーカー』と化し、観る者は出口の見えない不快感に打ちのめされていく。これを中国映画界でやってしまうグー・シャオガン監督の才気に加え、タイトル&ポスターヴィジュアルのギャップなど、間違いなく今年のベストテンに入る一本だ!