モンキーマン (2024):映画短評
モンキーマン (2024)ライター5人の平均評価: 4
なぜ彼はサルとして戦う道を選んだのか?
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』を、ふと思い出した。家族の復讐劇、バイオレンスであるはもちろんだが、そこに哲学や思想、アジアの神話性を盛り込んだドラマという点も、よく似ている。
『ファイト・クラブ』にも似たファイトシーンは肉体の痛みをしっかり伝え、『ジョン・ウィック』直伝のガンアクションはスピード感にあふれ目を奪う。そういう点では『オンリー・ゴッド』以上にエンタメ性に振れた。
主演とともに初監督を務めたD・パテルはルーツであるヒンドゥー社会の現実を踏まえながら、その先にあるものをつかみ取ろうとする。その意欲が、そのまま熱となったような力作。
“ハヌマーン繋がり”の壮絶なヴァイオレンス描写
監督・主演のデヴ・パテル自ら元ネタを明かすように『ジョン・ウィック』スタイルのアクションを踏襲する一方、ヒンドゥー教の神として知られる白猿ハヌマーン神話がベースということもあって、じつはハヌマーンが主人公のトラウマ映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』の系譜ともいえる壮絶なヴァイオレンス描写が見どころだ。そのほか、お約束の修行シーンしろ、『燃えよドラゴン』オマージュにしろ、やりたいことは分かるのだが、総合的には“情念に溢れた『マッハ!』”といった趣。そこまで斬新といえないうえに、この凡庸なストーリーで、2時間超の尺は、なかなか厳しいところ。
『ジョン・ウィック』x インド映画の極彩色でド派手さ倍増
『ジョン・ウィック』にインド映画を掛け合わせ、凄まじい暴力と極彩色と熱気を増幅させると、この映画になる。地下の犯罪世界で生きる男が、武術を鍛錬し、インドの打楽器のリズムによって技を体得する。彼の復讐譚を、インド古代叙事詩の猿の神ハヌマーンの逸話、古代インドの民族衣装による舞踏、ヒジュラの人々などインドの色彩が輝かせる。
格闘アクション映画の主演がデヴ・パテルとは意外な気がするが、そもそも本作は、インド系英国人のパテルが原案を考え、主演、初監督、製作を兼任する彼主導の作品。実は彼は、少年時代にテコンドーを学び、16歳で黒帯を取得した過去を持つ。パテルのアクションスターへの変貌ぶりも必見。
監督デヴ・パテルの才能が、いろんな意味で異常事態!
冒頭からインドの裏街をダイナミックに動くカメラワーク、マジカルな編集に引き込まれ、「ジョン・ウィック」も彷彿とさせる、流れるような格闘シークエンスに目を疑う。これを初監督で、しかも自作自演で撮ってしまうのだから、デヴ・パテルの才能&執念、恐るべし。小道具の異様な使用法も含めてバイオレンスの衝撃度も破格で、素顔の穏やかで知的なイメージを自ら破壊するかのように狂気のボーダーを超えていく、そんな彼の本能に震えた。
主人公のトレーニング風景が「ロッキー」シリーズに似ていたりして、映画ファンは思わぬ箇所でグッときたりも。一方で要所でインド的ムードを強調して、他の同種の作品と線引きするアプローチもうまい。
ジョーダン・ピールが惚れたのも納得
まさにデヴ・パテル渾身の一本。主人公が子供の頃、母親から聞いた古代インド神話の神猿ハヌマーンの物語(劇中『ラーマーヤナ』の人形劇も)が猥雑な都市空間でリアルな肉体と共に広がる。復讐劇として、虐げられたマイノリティの階級闘争として。ムンバイの陰画的な架空の都市「ヤタナ」は、さながら“南アジアのゴッサムシティ”だ。
『燃えよドラゴン』から『ザ・レイド』や『ジョン・ウィック』まで数々の“聖典”よりアクションを参照しつつ、カーストの反映、シヴァ寺院に集うヒジュラ達の描写など社会派の強度高し。基本は情念系のパワータイプながら、ごった煮的に詰め込んだ膨大な情報をスタイリッシュに処理したデザイン力も秀逸!