ヒットマン (2023):映画短評
ヒットマン (2023)ライター7人の平均評価: 3.4
かなりの部分が真実にもとづく驚きのダークコメディ
キレ味抜群なダークコメディ。脚本はもちろん、それらのせりふを最高のタイミングで言う俳優たちもすばらしい。リンクレイターとパウエルによる共同脚本なので、パウエルは脚本家としてもセンスがあるのかも。ビジュアル的にはパウエルの七変化ぶりが楽しい。これは、実在のゲイリーがやったこと。実際に存在しないヒットマン(殺し屋)という存在を、テレビや映画の影響で信じて殺しを依頼してくる人が、どんな相手だと納得するのかを考えて、その都度変装したのだ。そんなふうにかなりの部分が実話にもとづく一方、ラストは明白なフィクション。そこも作り手がウインクしながらやっている感じで、かたいこと言わずに楽しめる。
演じていたはずの、違う誰かになっていた!?
自分以外の人物を演じることで新たな自分に気づく。それはアイデンティティの成長か、はたまた危機か!? ラブコメディの枠に落とし込まれた、そんな物語が魅力を発する。
仕事で殺し屋を演じていただけで虫も殺せない男が、その殺し屋として、依頼人である女性と恋に落ちてしまうという絶妙の設定。G・パウエルの七変化は楽しいし、A・アルホナとのノッてる俳優が演じた恋模様のポップな描写もリンクレイターらしい味がある。
クライマックスで笑いが少々ブラックになるが、それが気にならなければ楽しめるに違いない。刑事たちをはじめ、脇キャラがしっかり立っているのも妙味。
グレン・パウエルが「七つの顔の男だぜ」
飛ぶ鳥落とす勢いのグレン・パウエルが多羅尾伴内ばりな七変化で笑いをかっさらうパウエル無双映画。じつはイーサン・ホーク並みにリチャード・リンクレイター監督と相性良く、今回は脚本&プロデューサーとしても参加。囮捜査官として変装に目覚めたことで、私生活でもいい男に変貌するお約束に加え、しっかりエロいアドリア・アルホナとの狂ったラブコメ、何とも言えないラストまで、どこか後期ウディ・アレン監督作の雰囲気も味わえる。「たまたま飛行機内で観たら“ヒット”した」感覚に近いが、引用される殺し屋映画の一本で、『殺しの烙印』じゃなく『拳銃は俺のパスポート』が登場するのは謎すぎ!
グレン・パウエルとリンクレイター監督が組んで、イイ味
『トップガン マーヴェリック』『ツイスターズ』の人気俳優グレン・パウエルが、囮捜査のために多彩な人物に偽装する七変化ぶりが楽しいクライム・コメディ。なりたい人物を演じているうちにその人物になってしまうという、人間心理の危うさ、面白さ。ゆるく笑わせながら、主人公のウソがバレるのかバレないのか、最後までハラハラさせる。
それにつけても、パウエルとリンクレイター監督は相性が良さそう。パウエルは『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』でもイイ味のキャラを演じ、『アポロ10号 1/2:宇宙時代のアドベンチャー』にも参加。2人のどこか飄々とした感じが、お互いに気持ちいいのかも。
楽しそうに演じる七変化に、注目スターの余裕がアリアリ
主人公の重要な役割のひとつは、とにかく相手の「記憶に残らない」こと。そのために没個性が要求されるわけだが、個性で勝負の俳優にはハードルが高い。しかも演じるのは現在、上り調子のグレン・パウエル。自分を“消して”、さまざまな扮装で偽の殺し屋に挑む。楽しそうに演じている姿に加え、リンクレイターとパウエルの親友同士がわちゃわちゃ作った現場を想像できて、こちらも幸せになる…という映画。
結果的に、これだけ引っ張りダコのわりに、まだスターのオーラが出てないのも、ある意味、パウエルの個性なのかもと納得。
過去の殺し屋映画へのオマージュや、教師である主人公が発する思わぬ教訓も、作品の良きスパイスになっている。
「サービス業」を自認するG・パウエル先生の演技論講座!?
全米ヒット連発でいま最も縁起の良い男、グレン・パウエルが主演&共同脚本&プロデュース兼任。実は4度目のリンクレイター組だが、ジャンル解体/脱構築系で知的なアプローチを見せる。パートタイムでおとり捜査官を務め、偽の殺し屋になりすます大学教授。要は実質的に詐欺師。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02年)ではないが、「演じる」事にまつわるメタ視点からの自己同一性の考察だ。
心理学を教える主人公の授業シーンが本筋の解題として機能する構成。飼い猫の名前はフロイトにちなんでイドとエゴ。『拳銃貸します』(42年・米)から始まるヒットマン映画引用のくだりでは『拳銃は俺のパスポート』(67年・日)も!
グレン・パウエル祭り
目下、勢いが止まらない感じのあるグレン・パウエルの主演作。今回はリチャード・リンクレイター監督と共同で脚本も手掛けるというまさに八面六臂ぶり。地味な文系学者が変装を駆使して架空の殺し屋になりきるというかなり突飛な話ですが、これが実話ベースと言うから本当に世の中、色々なことがありますね。ポスタービジュアルにもある通りいろいろなタイプの殺し屋に扮したグレン・パウエルが見ることができるので、ファンにはたまらない一本と言えるでしょう。リチャード・リンクレイター監督作品としてもかなり娯楽の方に振り切っているので楽しいです。