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太陽と桃の歌 (2022):映画短評

太陽と桃の歌 (2022)

2024年12月13日公開 121分

太陽と桃の歌
(C) 2022 AVALON PC / ELASTICA FILMS / VILAUT FILMS / KINO PRODUZIONI / ALCARRAS FILM AI

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

なかざわひでゆき

ネオレアリスモ的手法で描かれる個人農家の現在と未来

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 スペインのカタルーニャ地方。代々桃農家を営んできた家族が農地の明け渡しを迫られ、身の振り方を巡る意見の違いから仲睦まじかった家族がバラバラになってしまう。大企業による土地の買収、農地が減らされる代わりに増えていくソーラーパネル、苦労して育てた農作物は大手スーパーチェーンに安く買い叩かれ、経済的に行き詰まった農家は次々と土地を売って廃業していく。そんな、日本とも似たスペインにおける農業の厳しい現実を描き、個人農家が時代の変化にどう向き合っていくべきなのかを問いかける。プロの俳優ではなく現地の素人を起用。おかげで、大地に根を張った人々の物語として揺るぎない説得力が生まれたと言えよう。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

美しくも悲しく、切なくも温かい、"農"の物語

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 スペイン映画だからというワケではないが、『ミツバチのささやき』を連想したのは田舎の家族の物語であり、“農”を描いた作品だから。

 とにかく映像が美しい。昼の陽光と夜の闇の対比。スコアを鳴らすことなく、淡々とスケッチされるそれらは、主人公である桃農家を取り巻く状況を詩的に物語る。大人たちの深刻な表情と対を成す、子どもたちの無邪気さも忘れ難い。

 日本もそうだが、農業が権力に冷遇される現実は重い。が、それを声高に叫ぶのではなく、家族ドラマに溶け込ませた妙。スペイン特有の土地問題も勉強になり、最後まで興味深く観た。じっくり向き合いたい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

愛しくも哀切な抵抗の歌

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

スペインの気鋭監督、カルラ・シモン(86年生)のベルリン金熊賞に輝く優れた成果。前作のデビュー作『悲しみに、こんにちは』に続くカタルーニャ“地産”のオーガニックシネマだが、今回は鋭利な風刺劇でもある。伝統的な桃農家を営む三世代の大家族が直面する試練を通し、ローカリズムとグローバリズム、資本による圧殺など現代的な問題を長い射程で見つめる。

社会派としての強度を支える、夏の生気の高揚を帯びた地元のノンプロ俳優達の貌や姿が素晴らしい。往年の伊ネオレアリズモを継承した趣もある。大家族における人間群像の描き方の卓越で共通するメキシコ映画『夏の終わりに願うこと』を“柔”とすれば、こちらは“剛”の傑作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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