クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男 (2019):映画短評
クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男 (2019)ライター4人の平均評価: 3.3
タラちゃんとは何者なのか?
低予算すぎるあまり、衣装は役者の自前だった『レザボア・ドッグス』から『ヘイトフル・エイト』まで、8本の監督作の制作エピソードを通じて語られる「タラちゃんとは何者なのか?」。かなりアナログなビデオ屋店員がカンヌを経て、ハリウッドを制していくアメリカンドリームをまとめたのは、過去にリチャード・リンクレイター監督のドキュメンタリーも手掛けたタラ・ウッド監督。脚本作『トゥルー・ロマンス』など、過去作を観返したくなる構成はさすがだが、なぜか盟友ロジャー・エイヴァリーが不在なことや父親的存在でもだったハーベイ・ワインスタインについて、そこまで突っ込んでいないなど、やや不満も残る。
深く突っ込まない、ポジティブな裏話のコレクション
「ヘイトフル・エイト」までの8作の裏話がそれぞれに語られるのは興味深い。とりわけ低予算で作ったデビュー作「レザボア・ドッグス」にまつわる話は面白い。だが、ネガティブなことが意図的に避けられているのは明らか。彼の成功に密接に関わってきたハーベイ・ワインスタインのひどい行いをずっと知っていたことや、ユマ・サーマンに車のスタントをやらせてケガをさせたこともさらりと触れるだけ。「ヘイトフル・エイト」の脚本がリークし、激怒した彼が一度製作をやめると決めた出来事もまるで語られない。彼が極めて優れた監督/脚本家であることは変わりないのだし、恐れず、もっと突っ込んでほしかった。
明るい映画愛の裏側には“影”もある
タランティーノという映画監督は、その書籍を掘ったり、ドキュメントを観たりするだけで、かなり興味深いと思える人だが、改めてそれを整理したのが本作。
『レザボア・ドッグス』から『ヘイトフル・エイト』までの8本の監督作にフォーカスしつつ、彼の人間性に迫る。タランティーノの逸話をなんとも楽しそうに語る関係者の表情が、彼の映画愛を物語っている。
興味深いのは、この8作になんらかのかたちで関わっている、今となっては悪名高きプロデューサー、H・ワインスタインの影をも見据えていること。その暗さが映画の勢いを削いでいる気もしないでもないが、これは向き合わねばならない問題でもあったのだろう。
ガールズパワーの体現者としてのタランティーノ
クエンティン・タランティーノの映画人としての足跡を、あえて本人を登場させず、周囲の出演者やスタッフの証言と豊富なフッテージ、元ネタの映像も交えて振り返るドキュメンタリー。タランティーノの映画への偏愛はよく知られているが、「悪趣味」と評されることが多かった彼が、映画の中では一貫して女性を敬い、黒人を平等に扱ってきたことが強調される。スタントマンのゾーイ・ベルは、タランティーノが表現してきた「ガールズパワー」が現実の中でも実現しつつあると語る。これを観たら、もう一度タランティーノ映画を一気観したくなること必至。ユマ・サーマンの事故や、ハーヴェイ・ワインスタインの犯罪についても触れられている。