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敵 (2024):映画短評

(2024)

2025年1月17日公開 108分

敵
(C) 1998 筒井康隆/新潮社 (C) 2023 TEKINOMIKATA

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.8

森 直人

「長塚京三の穴」に入る体験

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

吉田大八監督の脚色術が冴え渡る傑作。数ある筒井康隆の映画化でもNo.1の精度か。主人公・儀助は“煙草を吸わない”男に変換され、母の胎内で空襲を体験した年齢設定など長塚京三のリアリズムに沿って再構成される。日常のディテールは『PERFECT DAYS』ばりの丁寧さで、これもまた小津の派生形か。そこから塚本晋也的なヴァーチャルリアルへと転化していく奇怪なダイナミズムに震える。

夢と現実の極めてツツイ的な境界溶解の中で、フェミニズムに対応する男性性からの情けないアンサーという現代性が付与される。モノクローム、家、シュルレアリスムの共通項からもホン・サンスの『WALK UP』に補助線を引けると思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

敵は思わぬところからやってくる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 "老い"というものは恐ろしすぎるためだろう、通常はユーモラスに描かれることが多いが、この映画はそこに逃げない。おかしみはあっても、笑わせてラクにしてくれることはなく、物語に正面から向き合わせる。主人公は日々の雑事の手を抜かず、自分を律して一人暮らしをする元大学教授77歳。彼の前に、さまざまな敵がさまざまな方向からやってくる。しかし、それらは何にとっての敵なのか。なぜ、それらを敵と認識してしまうのか。いろいろなことを考えさせられる。

 明暗のコントラストの強いモノクロ映像で描かれて、現実で起きていることと妄想が同じ姿で現れて区別がつかず、それが途切れなくつながっている状態が強い印象を残す。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

見事にやられました

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

吉田大八監督作品でいながらちょっとノーマークだったのが今となって誤りだったと思わざる得ない作品。筒井康隆原作ということで不条理SFな展開が出てくるのだろうとは思いましたが、ここまで凄いことになるとはいい意味で裏切られました。今も、とても気持ちの良い鑑賞後感覚が残っています。映画の前半と後半で全く違う意味合いを持っていて後半を知った上で前半から見直すと別世界が拡がっていることに気が付きます。2度3度と繰り返して見ることをお薦めする映画です。主演の長塚京三はもうこの人しかいないだろうというキャスティングですね。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

静謐な一人暮らしの生活に波が立ち、やがて異様なスリルも

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

時代は明示されていないが、パソコンなどの仕様からしてほぼ現代。しかし主人公の暮らす家や日々の食事風景、行きつけのバーなどがあえてレトロに表現され、しかもモノクロ映像と相まって、ひと昔前のノスタルジーに浸る。心地よい映画体験。
一方で描かれるテーマは後半かなりシビアで、観た人それぞれが人生の行き着く先に思いを馳せ、いたたまれない気分にもなる。これもまた優れた映画体験。
勢いのある俳優も出演しつつ、あくまでも「役にぴったり」にこだわった感のあるキャスティングに感心しまくり。シュールな演出もあって非現実世界に連れて行かれそうになるたびに、彼らの実直な演技でリアルが戻ってくる。これこそ映画体験の喜び!

この短評にはネタバレを含んでいます
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