アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方 (2024):映画短評
アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方 (2024)ライター5人の平均評価: 4.2
トランプを生み出した米政財界の本音と正体を暴く
ウォーターゲート事件からレーガン政権へかけての時代を背景に、野心的だが初心で世間知らずな若者ドナルド・トランプが、アメリカの政財界を裏で操る黒幕ロイ・コーンの指南によって、現在の我々が良く知る怪物的な権力者へと変貌していく様子を描く。トランプ大統領についての映画というよりも、むしろトランプ的なものを生み出した米政財界の本音と正体を赤裸々に暴きだす映画と言えよう。愛国者を自称する彼らの守りたいアメリカというのが、自分たちの好き勝手に富を独占できる狩場でしかないこともよく分かる。これぞ資本主義の悪夢。トランプ役セバスチャン・スタンのなりきりぶり、時代を鮮やかに再現したアッバシ監督の演出も見事。
モンスターが生まれた20世紀
トランプ政権2期目の始まりに合わせてタイムリーに日本公開される本作。新大統領の若き日、すなわち壮絶な“修行時代”を描いている点で、じつに興味深い。
若きトランプが弟子なら、彼に帝王学を仕込む非情な弁護士は師匠。道徳なんてどうでもいい。情は無用。大切なのは、つねに勝つこと。それを実践したあげく、師をも容赦なく打ちのめすほどの怪物となる、主人公の変ぼうに圧倒される。
MCUのバッキーと同一人物とは思えないほどの、S・スタンによるトランプへのなりきり具合もおみごと。つくりは軽やかだが、こういう生き方がスタンダードになったら世も末か……と思わせる、ある意味ホラーでもある。
視点はフェアだが遠慮もしない大胆な映画
決してトランプを悪者扱いする映画ではなく、視点はとてもフェア。かと言って遠慮もしない大胆な映画だ。父に認められたいと願う若者が、くせ者弁護士コーンの影響で変化していく。“資質”はあったとはいえ、もしコーンに出会うことがなかったら、我々の知るトランプは存在したのか。ほかにどんな要素が貢献したのか。トランプが大嫌いでも、現実としてまた大統領になってしまった今、理解するために見ておくべき。脚本を書いたのはトランプに取材したこともある元政治記者。最初の妻イヴァナや実兄に対するショッキングな行動も含め、ここで描かれることは事実に根付いている。主演のスタンもだが、コーン役のストロングもすばらしい。
セバスタの再現度の高さに圧倒!
前作『聖地には蜘蛛が巣を張る』で次なるステップに上がったアリ・アッバシ監督による、「トランプ立志伝」。ということで、初めて他人による脚本ではあるものの、爆上がりする期待値に間違いなく応えてくれる! ピュアなボンボンが悪徳弁護士に導かれ、「3つの教え」を叩きこまれ、怪物に変貌していく展開は、まさにフランケンシュタイン誕生物語であり、ギリシャ悲劇の趣もアリ。ウィンターソルジャーの面影が微塵もないセバスチャン・スタンの憑依っぷりはもちろん、編集のテンポも心地良く、本作を観ることで、今のトランプの言動から女性の趣味に至るまで、いろいろ分かってしまうヤバさも興味深い。
相手を攻撃し勝つことこそが人生の目標になった男
なぜ、あのような人物が誕生したか。そこが手に取るようにわかる若き日のドラマは、長年、取材を重ねたジャーナリストの脚本という説得力で衝撃を与える。こんな赤裸々に描かれたら(作品は観てないようだが)本人が怒るのも納得。何度か言及される「3つの教え」は、攻撃性や非を認めない傲慢さで「三つ子の魂百まで」の諺どおり。この方が大統領に復活する2025年以降の世界情勢に思いを馳せる。
メリハリの効いたエピソード構成の良さも、作品吸引の要因。
セバスチャン・スタンは細かい手先の仕草、表情の作り方まで模倣し大健闘。終盤に近づくにつれ、じわじわ現在の本人が“降りてくる”変化が凄まじく、ラストは神レベルの憑依に!