ズートピア (2016):映画短評
ズートピア (2016)ライター8人の平均評価: 4.5
噂以上の高レベル! バディムービーとしても超素敵だ。
やっと今頃観たんですが(笑)、余りにも知的な傑作だったので一筆。そもそも寓話とは象徴化や要約化を通して「社会(世界)の縮図」としての精度を高めていく形式だが、本作の凄さはカテゴライズという行為そのものへの批評があること。キャラを意味的に配置するだけでなく、固定されたイメージをどんどん反転させていく。まるで我々の偏見や先入観の根深さを試すように、最後の最後まで意外な動物が別の顔を見せ続けるのだ。
特に「生物学的」というキーワードは重要。この言葉がどれだけ差別の歴史に手を貸してきたか、自戒も含め改めて考えてしまった。あらゆる区分を超えた(剥ぎ取った)ジュディ&ニックのコンビ誕生は本当に美しい!
まさにサテュロスたちのサタイア。
なんとタイムリーな。トランプ陣営が勢いづいているときによりにもよって(笑)。もちろん意図したワケじゃなかろうが、現代アメリカ社会の不寛容とステレオタイピングをクドいほどにイジりまくる。狙いは’70年代の刑事映画だろうけど、心意気としてもその時代の空気を受け継ぐ社会派エンタテインメントだ。ゴッドファーザーネタやヒッピーネタ(声はチーチ&チョンのトミー・チョン)もあるしね。アニメーションとしても、キャラクターの縮尺比を活かしたダイナミックなチェイスやトニー・スコットばりの地下鉄パニックなど高度なカートゥーン的アクションてんこ盛り。間違いなくここ10年のディズニー/ピクサー最高作と断言できる。
攻めてる会社はやることちゃう
一見、ウサギの新米警官の成長物語。だが彼女が夢見た楽園で行われていたのは、大量虐殺に独裁政権など人類が繰り返し起こす愚行の構図そのもの。それをアニメで、動物を使って見せるとは! このモヤモヤ感は、甘いリンゴかとかじったら、毒が仕込まれていて震えが止まらなかった『リップヴァンウィンクルの花嫁』の鑑賞後と似てる。
ディズニーと言えば『アナと雪の女王』で自ら運命を切り開く新たな女性像を描いたが、この会社は自社が築いてきたアニメ映画の概念そのものを変えようとしているのかも。次は何を出してくるのか…怖ッ。
とりあえずお子ちゃまには、何でも見た目で判断しちゃいけないゾ!ってことだけは伝われば。
差別や暴力がはびこる社会の現実を子供達にしっかり伝える新機軸
表向きは動物版イッツ・ア・スモールワールドのような理想郷のようでいて、その裏側は世知辛く、差別や暴力がはびこっている。権力者の二面性をも暴く脚本が鋭い。人間社会の縮図を見せ、それでも障壁を乗り越えていく小さなヒロインの奮闘を、笑いと涙で包み込む。伝統に則し、前向きなキャラと夢を設定しつつも、生きづらい現実を描く新機軸に、ピクサーと融合して復調10年目のディズニーの自信と余裕がみてとれる。『アナ雪』で同時代のヒロインの新たな幸福観を提示したディズニーアニメ。ここでは子供向けだと割り切らず、成長した子供たちを取り巻く世界の描き方においても、メルクマールとなる作品を打ち出すことに成功した。
可愛い動物アニメに現代社会の暗部を映し出す渾身の傑作
小柄なウサギの新米警官が、一人前として認められるために大奮闘を繰り広げる。自分を信じて努力すれば必ず夢は叶う…なんて無責任な絵空事を描いた子供向け動物アニメかと思いきや、これがとんでもない傑作だった!
知性の発達した動物たちが暮らす高度な文明社会という設定が一つのカギ。ある日突然、肉食動物たちが次々と野生本能に目覚めるという事件が発生し、これを契機に草食動物たちの間で疑心暗鬼が広まり、一見すると平和な理想郷の裏に隠された差別や憎悪、格差や不平等が一気に露呈していく。
憎しみや争いの元凶はもちろん、大衆の不安を扇動する権力の構造にまで鋭く切り込んでいるのは驚き。ディズニー恐るべし!
キッズをインスパイアしつつ、実は社会派という傑作アニメ
うさぎのジュディがガラスの天井をブチ破る表向きの展開は、「努力すればなりたい自分になれる」という子供向きメッセージ。相棒ニックが捕食者キツネなのも、敵対する者同士も仲良くなれるという甘々な理想論に基づいている。でも、ジュディが暴く闇が暗示するは……。(人)種差別だったり、権力掌握の画策だったりとかなり社会派テーマなのが素晴らしい。子供に現実の厳しさを刷り込まなきゃね。声優はみな芸達者で、特に感動するのがニック役のジェイソン・ベイツマン。心に負った傷を隠しきれないキャラクターを演じさせたら本当にうまい。声だけでも哀しみがばっちり伝わる。それとシャキーラの歌声がとても耳に心地いいよ。
楽しいビジュアル、大人も納得のストーリー
小さな子供たちが喜ぶようなビジュアルと、大人も納得するストーリーの両方を実現。とくにストーリーは重層的。都会に出てきた主人公の成長物語であり、事件の真犯人探しの謎解きミステリーでありつつ、多数の動物たちが共存する世界という多文化社会のメタファーを用いて、無意識の偏見をめぐる物語にもなっている。この"無意識の"という領域に踏み込んだところがポイント高い。
その物語の舞台となる、多様な動物たちが人間のように暮らす社会の風俗描写が楽しい。ナマケモノの公務員、レミングのサラリーマンには思わず苦笑。また、小動物が暮らす街、寒冷地の動物が暮らす街など、街ごとの多彩な景観が細部まで作り込まれている。
上戸彩の日本語吹き替えがドハマり!
ウサギを主人公にした「どうぶつの村」ならぬ“街”な、ほのぼの動物モノかと思いきや、そこは『塔の上のラプンツェル』と『シュガーラッシュ』を手掛けた両監督のコラボ作。日本語吹き替えを務めた上戸彩が、10年前ぐらいにTVドラマで演ってもおかしくない熱血婦警奮闘記であり、詐欺師のキツネが相棒のサスペンス・アクションである。人種問題を連想させる肉食動物と草食動物の共存ネタなど、ややメッセージ性はあるものの、明らかにドラッグにしか見えない薬物ネタや、しつこいぐらいの『ゴッドファーザー』ネタ、ナマケモノの事務員によるシュールなギャグなど、しっかり“大きなお友達”向けになっているのも嬉しいところ。