カーズ/クロスロード (2017):映画短評
カーズ/クロスロード (2017)ライター5人の平均評価: 3.8
大人の鑑賞に耐えうるアニメの最新モデル
前作が007のパロディに終始するあまり低評価となったせいか(個人的には楽しんだが)、今回はシリアスに軌道修正。世代交代という現役意識の強い熟年層には切ないテーマを刷りこんでドラマを紡ぐ。
主人公マックィーンに1&2作目のような調子こきムードは一切なく、ベテランらしい落ち着きさえ感じさせる。それゆえに世代交代の現実は重い。それを彼にどの局面で意識させるのか?という点で、巧い作り。
熟年意識の一方で若さにも目配せしている点もいい。才能と自信を兼ね備えた者もいれば、才能はあるが自信が欠如している者もいる。それを見据えている点も絶妙。文句なしに、大人の観賞に耐えうるアニメーションだ。
ミドル・クライシスにもがくピクサー自身の、世代交代の神話
自らの限界を感じ始めたマックィーンと新世代レーサーの台頭。子供たちを置き去りにするほど、“中年の危機”に向き合う深刻な作り。マックィーンのボディ・ナンバーは第1作制作当初、ジョン・ラセターの生年を表わす「57」だったが、『トイ・ストーリー』の制作年「95」に変更したという経緯がある。つまり主人公はラセターでありピクサーだ。シリーズの精神的支柱ドックは、古巣ディズニーの黄金期「50年代」のレジェンド。オモチャやクルマをモチーフに、アナログとデジタルを対比させてきたラセターも還暦を迎え、本作を新人監督に委譲した。あまりにも内省的な物語。これは、世代交代の現実に直面したピクサー自身の神話である。
大人こそ共感できる世代交代のほろ苦さ
人気カーレース・アニメ第3弾は、天才的なスター・レーサーとして突っ走ってきたマックイーンが世代交代の問題に直面する。台頭する若いレーサーたちによって、昔からの仲間やライバルはことごとく駆逐され、自らも体力的に太刀打ちできずトップから転落。果たしてこのまま朽ち果てていくのか、それともトップへ返り咲くことが出来るのかがストーリーの焦点となる。
誰もが避けられない「老い」の現実、過ぎ去りし栄光の日々への郷愁、そして世代交代のほろ苦さ。子供向けアニメにあるまじき重いテーマだが、しかし現実を悲観するのではなく前向きに捉えようという語り口は明朗快活。恐らく大方の予想を裏切る結末にも、深い含蓄がある。
奥田民生の「エンジン」が心地よい
日本版エンドソング、奥田民生が大人の心意気を歌う「エンジン」の速すぎないちょうどいいテンポ、力の入りすぎない楽々とした歌いようが心地よく、本作で描かれた出来事の後の主人公マックィーンが、この歌のような「鼻唄まじりで行ってみよう」という境地であるようにと願う。これまで第一線で活躍してきた主人公が、新たな世代の台頭と状況の変化によって成果を出せなくなる。彼はその事態にどのように臨むのか。それを描く今回のストーリーは、かなり大人向けだ。
とはいえ、映像の素晴らしさは全世代向き。カーレースの白熱を体感させる映像は、さらに迫力をアップ。いつものようにアメリカの大自然の光景がスクリーンに広がる。
オヤジ泣かせ…だけじゃない
世界を駆け巡るスパイ・コメディと化した前作から一気に、原点回帰。若手の台頭から過去の人となり、人生の岐路に立たされたレーサー、マックィーンの姿を描くことで、ガチでオヤジ泣かせに走る。しかも、サントラはブルースやカントリーが彩り、テーマのひとつは、アスリートなら一度はぶつかる“引き際のタイミング”。完全にお子様置いてきぼりな展開だが、今回相棒となる若き女子キャラ、クルーズがこれまた卑怯。現場知らずのデータ重視キャラだけに、最初はぶつかりながらも、次第に師弟関係が生まれる流れは、『マイレージ、マイライフ』のよう(日本語吹替は松岡茉優とは絶妙すぎ!)。要はオヤジの妄想映画でもあったりするのだ。