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由宇子の天秤 (2020):映画短評

由宇子の天秤 (2020)

2021年9月17日公開 153分

由宇子の天秤
(C) 2020 映画工房春組 合同会社

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.8

なかざわひでゆき

当事者でない我々は誰かの過ちを断罪できるのか?

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 女子高生いじめ自殺事件を取材するテレビのドキュメンタリー作家・由宇子。少女との淫行を疑われた男子教諭も自殺していた。保身に走った学校の隠蔽体質に加え、マスコミの過熱報道にも批判の目を向ける彼女だが、しかしテレビ局幹部は後者のカットを命じる。正義感の強さゆえ納得がいかない由宇子。だが、大切な家族の重大な罪を知った時、彼女はその真実を明らかにすべきか闇に葬り去るかの選択を迫られる。誰にでも事情がある。ニュースで事件やスキャンダルが報じられるたび、多くの人々が正義感に駆られて悪とされる側を糾弾するが、果たして当事者でない我々に誰かの過ちを断罪する資格などあるのか?重要な問いを突き付ける問題作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

正しさとは何か?を問う社会派の人間ドラマ 

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

高校のいじめ事件を追求するドキュメンタリー監督が究極の選択に直面。彼女の心の揺れから浮かび上がる、「正しさとは何か?」を問いかける社会派の人間ドラマだ。事件に関わった人々へ取材したヒロインが見出した真実とテレビ局側が求める真実のズレや情報化社会が生む同調圧力、伝聞情報の不正確さなどは我々が日々直面している問題だが、受け流してはいないか? 真実を覆い隠す危険性を実感させると同時に、他人に対して無関心であったり、インスタント正義を振りかざしたりする風潮への警鐘が鳴る。ジャーナリストの倫理がありがらも、守るべきもののために道を踏み外す由宇子を瀧内公美がリアルに演じている。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

2021年の日本映画を代表する一本!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

プロデューサーとして片渕須直監督の名がクレジットされていることでも話題だが、徹底的なリサーチなど、作り手のハンパない熱量を感じる一本。ドキュメンタリーディレクターの苦悩や葛藤は、『すばらしき世界』でも描かれていたが、それが身内絡みにスライドしていくことで、ブッ壊れたジェットコースターと化し、強烈なラストまで、152分を突っ走る。“真実”と“正義”の間で振り回されるハードボイルドな主人公を演じる瀧内公美は言わずもがなだが、『サマーフィルムにのって』のビート板役とは異なる芝居を魅せる河合優実がヤバい。『茜色に焼かれる』などとともに、2021年の日本映画を代表する一本といえるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

今年のベストワン!と夏の時点で独り決めしてしまった大傑作!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

猛烈に面白い。『かぞくへ』からレベル爆上がりした春本雄二郎監督の第2作。起点の事件や主題は『飢えたライオン』(緒方貴臣)とも、ダルデンヌ兄弟イズムは『海辺の彼女たち』(藤元明緒)等とも共振しつつ、緻密なパズルはアスガー・ファルハディを越え153分のボリュームを全力疾走。現実音のみに強弱をつけた音響設計も凄い!

人生は「瞬間の判断」の連鎖で出来ており、我々はこの無理ゲー社会で常に己の価値観や偏見をテストされる。これは「正しさ」の側に立ちたがる我々に向けられたブーメラン。本当は誰もが「愚か」な当事者ではないのか。ベルリン映画祭パノラマ部門に異例の正面突破を果たしたが、質は完全にグランプリ以上!

この短評にはネタバレを含んでいます
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