ジュピター (2015):映画短評
ジュピター (2015)ライター5人の平均評価: 3.2
人間描写の薄さが最大の障害か
女性版『マトリックス』とも、ウォシャウスキー姉弟流『オズの魔法使い』とも呼ばれる本作。うだつの上がらない主人公が思いがけず宇宙紛争に巻き込まれることで、平凡な日常や家族の有難みを知るという筋立てに、名作『スターファイター』辺りを想起するSF映画ファンも少なくないかもしれない。
それほどまでに出尽くした感のある設定も然ることながら、登場人物たちの型通りな人間描写が最大の難点。キャラクターに血肉が通っていないせいもあって、宇宙船などの壮麗な美術セットや手間ひまをかけた派手なVFXも空々しく感じられてしまう。王位継承にやたら面倒な手続きが必要だったりするバカバカしさは嫌いじゃないけれど。
どっちつかずがタマに傷の女性版『マトリックス』
生活に疲れた主人公が、別世界の救世主になる可能性を秘めている……という大筋は『マトリックス』の女性版。しかし、詰め込まれた要素は『マトッリクス』とは異なる。
3D映像には迫力があり、ビジュアル的に退屈させることはない。ユーモアも満点でヒロインの軽妙なキャラクターが良く出ており、本作の魅力として機能する。
残念なのは、この軽さが『マトリックス』の1作目に宿っていた力強いテーマの伝達を妨げていること。いっそお笑いに徹してくれたらベタな家族のドラマも心置きなく楽しめたろうが、結果的にハードともソフトともつかぬ一貫性に欠けた作品となってしまった。詰め込み過ぎが惜しまれる。
チャニングのマンライナーのせいで注意力散漫に……
『マトリックス』以降、減少していたウォシャウスキー姉弟のマジックがついに消失したようだ。もちろんアブラクサス一族が支配する王朝の造形や宇宙船はじめとするガジェット&衣装デザインなどは豪華なゴシック風だし、観客の興味を引くには十分。でも「どこかで見たような風景」というデジャヴュ感が残るのも否めない。エディ・レッドメインの満を持した感アリな悪役も薄っぺらいが、ウォシャウスキー作品と期待値が上げなければ楽しめるかも。最大のがっかりはチャニング・テイタムで、アイメイクに失笑。彼のマンライナーに気を取られて、本筋を忘れそうでした。アレはやはり、退廃的なミュージシャンあたりの専売特許にしとくべきだろう。
“脳内で”『パシリム』テーマ曲、流れます。
「オデュッセイア」と『ターミネーター』をミックスしたような初期設定、つか“女子版『マトリックス』”からも分かるように、相変わらず膨大な予算を懸け、アホなディストピア映画を作ってしまうウォシャウスキー姉弟の感覚がステキだ。エルフ耳を付けても、キュートじゃないチャニング・テイタムを始め、キモさ際立つマザコン王子なエディ・レッドメインやパンクメイクな雑魚キャラのぺ・ドゥナなど、俳優のムダ使いも逆に愛らしくなるほど。もちろん、『マトリックス』のミラクルは起きません。そして、次々登場するガジェット&ロボに高まりまくり。ちなみに、ロボ出動の際には『パシリム』のテーマ曲が“脳内で”流れることでしょう。
監督姉弟好みのSFアイテムぎっしりの豪華絢爛SF絵巻
今回の飛び道具は、引力変換ブーツ。このブーツは、引力の方向を変えて、空中を全方位に飛行可能。映像では、ブーツの動きの軌跡を描いて、動きの細かさと自在さを強調、ウォシャウスキー姉弟が映画化を希望していたSF小説「スノウ・クラッシュ」の街の隙間を駆け抜けるスケートボードを連想させる。
そんな具合に全編に監督姉弟が大好きなSFの定番アイテム(人間と他生物の遺伝子交配、長寿の知的生命体、人間の起源説等)を詰め込んで、シェイクスピア風愛憎劇と「オズの魔法使」を掛け合わせたので、デザイン様式もSFとルネサンス風装飾のハイブリッド。冒頭のロゴマークの紋様から、彼らの意匠がシッポの先まで詰まってる。