藁の楯 わらのたて (2013):映画短評
藁の楯 わらのたて (2013)ライター4人の平均評価: 3.5
激しく胸をザワつかせる強力エンタテインメント
観終わって振り返ると“ありえない”と思う点は多々あるものの、観ている間はテンションの高さに引っ張られて、ドラマの渦に飲みこまれる。“自分はどこまでプロに徹することができるのか?”“自分ならどうやって10億円をせしめるか?”などなど、頭の中で激しくクエッションが飛び交う。一方で、世知辛い世を斬る風刺も突き刺さってきて、ザワつきが止まらない。映画が2時間程度の間、観客を異世界に導いて何かを考えさせる芸術であるならば、本作は合格点をあたえられると思う。
1970年代の邦画大作を思わせる大ぶりの熱気
カンヌでの「荒唐無稽」という評価を待たずとも、リアリティの面では極めてツッコミどころの多い作品。しかしその脇の甘さも含めて「味」だと言ってしまいたい! 例えば『新幹線大爆破』など、1970年代の日本映画娯楽大作を復活させたような大ぶりの熱気があるのだ。大芝居系の俳優をメインにそろえた極太の筆致で(顔のドアップがやたら多い)、路上に風がびゅうびゅう吹いている大袈裟すぎるクライマックスなど、まさに「劇場型」の魅力。役者陣では意外に長江健次(中小企業のがけっぷち社長)の印象が強い。また原作者の木内一裕はヤンキー漫画『ビー・バップ・ハイスクール』で有名なあの「きうちかずひろ」! 彼は映画監督としても『カルロス』『鉄と鉛』『共犯者』などソリッドな秀作をモノにしており、自身で本作を映画化していたらまた異なる味に仕上がっただろう。
B級原作を大作として作ったことがマイナスに
代表作を自身で監督した94年版「ビー・バップ・ハイスクール」やVシネのように、かなり実力はあるが、B級色が強いのは否めない原作者・きうちかずひろ。本作も彼自身で監督するために書いた原作というところがポイントである。つまり、コリン・ファレル版『S.W.A.T.』のようでオリジナリティのない設定や、荒さがあることが魅力だったのだ。そんな原作を大作として作れば作るほど、その荒さが目立つのは当然。三池崇史監督はスタッフ、キャストにVシネ要因を入れることで、それを回避しようとしていたが、その程度では難しく、緊張感のないシーンが延々と続く、2時間ドラマノリな結果に。そりゃ、カンヌで失笑を買うのは当たり前。レイトショー公開程度の低予算作品にしていれば、カルト的人気になっていたと思われるだけに残念。
人間のおぞましさを赤裸々に描く
懸賞金10億円の凶悪犯を護送するSPたちの苦悩と戦いを描く。犯人の清丸は生まれついての異常者。性善説などまるで通用しない怪物だ。そんな彼の命を狙うのが、可愛い孫娘を殺された財界のドン、そして彼の提示した懸賞金に与ろうとする貧しい一般市民。さながら、弱者の仮面をかぶった怪物集団と言えよう。この両者の狭間に立たされた主人公たちの葛藤が物語の主軸となる。ストーリー展開やセリフは予定調和の域を出ないものの、三池監督の演出は本能と感情をむき出しにした人間のおぞましさを赤裸々に描いて秀逸。そして、正義とはなんと虚しく苦々しいものなのか。惜しむらくは、清丸を演じる藤原竜也が可愛らしすぎること。最後のテーマ曲も余韻ぶち壊しで萎える。