マネーモンスター (2016):映画短評
マネーモンスター (2016)ライター5人の平均評価: 3.6
踊らせる方にも踊らされる方にも批判を向けるバランス感覚
テレビの人気財テク番組が生放送中にジャックされ、やがて一般株投資家を食い物にする金融市場の裏側が暴かれていく。
とはいっても、腹黒い資本家ばかりを槍玉に挙げているわけではない。安易に株で儲けようとして全財産を失い、腹いせに放送スタジオを占拠した愚かな若者。無自覚とはいえ、いい思いをしているうちは情報操作に加担しておきながら、被害者になったとたん社会正義に目覚めるテレビ司会者。踊らせる方にも踊らされる方にも批判の矛先を向ける。このバランス感覚がいい。
サスペンスやテンポの持続については若干難ありだが、エンタメとメッセージ性の両立という意味においてもバランスは絶妙。ほろ苦いラストも悪くない。
格差社会のダメ男たちを見つめる女性のまなざしの妙
格差社会の現実とそれに対する怒りを見据えた今どきのサスペンス。社会派の視点はもちろん生きているが、それも確かな人間ドラマがあってこそ、だ。
セレブ然とした司会者も、彼を人質にとるろう城犯も、富や名声にこだわって生きている。その必死さに加え、愚かしさをもとらえ、なおかつ彼らを単なる英雄にも悪漢にもしない。監督ジョディ・フォスターのバランス感覚が、そんなリアルな人物描写に活きる。
ジョディの視点がより生きるのはジュリア・ロバーツの存在だ。キャラクターとしては男連中よりずっと地味だが、誰よりも状況を的確に把握し、男たちの錯綜を理解する。映画の重力は、彼女の菩薩的存在感にある。
ジョディ監督、よっ!男前!
理不尽なことがまかり通る世の中に、エンタメ業界の人間がどう異論を唱えるか。
マジメな日本人は社会派で真っ向勝負するのが常だが、やっぱりハリウッドは上手い。
経済番組をジャックするというアクション・サスペンスの設定を借りながら、
リーマンショックなど世界恐慌の要因を作った銀行のトップが何のお咎めナシだった米国社会の仕組みはおかしくないかい?と疑問を投げかける。
2大スターの見せ場も作りつつ、99分の中できっちりと。
これぞプロの技。
鑑賞中、ジョディが監督だって忘れていたほどだが、機知に富んだ笑いで要点をズバッと言うのは、まさにジョディ印。
観客に満足感を与えない、苦いラストも⚪︎。
ジョージ・クルーニーの無責任キャラが強烈!
デビュー作『リトルマン・テイト』以来、これまでの監督作で一貫して家族の絆を描いてきたジョディ・フォスターが、まさかのシフトチェンジ。“ほぼ”リアルタイムで進んでいく展開のなか、随所でまさに“BALLS”といえる男前演出を魅せてくれる。生放送中のスタジオ・ジャックやご都合主義ともいえるラストなど、金融というテーマ以外、決して目新しさはないものの、「ER」の生放送回を思い起こさせるジョージ・クルーニー(アホアホなダンスも披露!)と、さらに篠原涼子色が増したジュリア・ロバーツの圧倒的な存在感で引っ張る。しかも、秘策がことごとくハズす笑いが緩急を生み、上映時間は99分ポッキリというのもポイント高し。
富める99%の“強欲は善”感覚に怒れ!
『ウォール街』や『マネー・ショート』で培った金融不信に油を注ぎ、情報を垂れ流すだけの情報番組を批判する風刺ドラマだ。ドミニク・ウェストがシステム不備の起きた投資企業トップを演じる段階で悪人とわかるので物語に新鮮味はないが、「おおっ」と思ったのが一夜にして破産した怒れる青年カイルの恋人の存在。事件に激怒し、TV放映されているスカイプ会話で彼を罵倒。ミレニアル世代らしさ? NYのスタジオでの事件が放映されるソウルやアイスランド、南アの人々が事件に関わる展開は巧み。静かに快演するジュリア・ロバーツはじめとする役者陣の見せ場作りも素晴らしく、ジョディ・フォスターの監督としての手腕が磨かれたと実感する。