クリムゾン・ピーク (2015):映画短評
クリムゾン・ピーク (2015)ライター4人の平均評価: 4
クライマックスにメカがあるのもデル・トロだね!
G.デル・トロのゴシック趣味は『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』にも明らかだが、これはあらゆる細部に凝りまくった到達点。物語こそ『レベッカ』あたりの定石を踏み外していないが(これも正統的なところで勝負したかったからだろう)、奥行きが強調され、神経質な照明が施された美術セットの完成度は魅惑的というしかない。いや、いかにもゴシック的な「館」だけではない、20世紀初頭のNYの外景も、たとえば『いちごブロンド』がカラーで甦ったように興趣が尽きないのだ。M.ワシコウスカがこのテのヒロインにぴったりなのは判っていたが、終盤で清姫的般若の相を剥きだしにするJ.チャステインに口あんぐり。
デル・トロ流ゴシック・ホラーの美学に酔う
古典的ゴシック・ホラーを現代に甦らせる、そんなギレルモ・デル・トロの意欲がひしひしと伝わる力作。
それが何より表われているのがビジュアル。光と闇のバランスや、館の冷気に満ちた空気感。そんなゴシックの基本を踏まえつつ、“ここぞ!”という場面では炎や鮮血、雪中の赤土のショッキング・カラーが映える。残酷なまでに美しい映像に見惚れた。
古典ゆえにドラマ面での意外性は期待できないが、ビジュアルだけでも十分に魅力的。役者たちの個性も陰と陽がハッキリしていて、誰もがハマリ役だ。こういう映画が撮れるのはティム・バートンだけだと思っていたが、デル・トロも負けてはいなかった。
絢爛豪華たる映像に目を奪われる壮麗なゴシック・ロマン
20世紀初頭のイギリスを舞台に、没落貴族のもとに嫁いだアメリカ人女性が遭遇する怪奇現象の謎と、そこに隠された恐るべき暗い秘密を描く壮麗なゴシック・ロマン。
とにかく、絢爛豪華たるビジュアルの妖しくも美しいこと!ロバート・ワイズの『たたり』を筆頭に過去の名作ホラーを彷彿させる要素が多いのは、シネフィルたるデル・トロ監督の真骨頂。細部までこだわった美術セットや鮮烈な色彩には、マリオ・バーヴァの影響も強く感じられる。
ドゥ・モーリエの『レベッカ』を下敷きにしたであろう脚本はさすがに既視感が否めないものの、しかし古典的なゴシック・ロマンの世界にオリジナルで勝負するという心意気は大いに買いたい。
デル・トロ監督が撮るとゴシックはこうなる
デル・トロ監督自身は本作を古典的ゴシック・ロマンだと語っているが、彼が監督する以上、ただそれだけの映画にはならない。
もちろん、朽ちた古城、いわくありげな美貌の姉弟、秘められた過去、と要素が揃って、耽美なゴシック世界が出現する。が、まず、そこに現れるゴーストがなんだかキュートな造形なのが、デル・トロ的。そして、全編の深く濃い色彩は、デル・トロが大好きな極彩色イタリアン・ホラーの名匠マリオ・バーヴァへのオマージュだろう。タイトルは、物語の舞台となる、雪が降ると赤土を溶かして深紅色に染まる丘のこと。監督はこの"深紅"という色を題名に入れて、本作の正体が極彩色ホラーであることを宣言している。