ラッシュ/プライドと友情 (2013):映画短評
ラッシュ/プライドと友情 (2013)ライター5人の平均評価: 4.4
狂気に満ちた70年代の欲望とスピードに魅せられて
F1に関心なき者もグイグイと引きずり込む、スクリーンを切り裂く悪魔のような映像。欲望とスピードと勝利に魅せられた人生。クレイジーな70年代を走り抜けた伝説的ライバル同士の苛烈をきわめる対決。破天荒な熱き実話に対し、演出も演技も負けていない。
“壊し屋ハント”と“走るコンピュータ”。敵対関係にあった彼らの距離が接近する過程に真実味が宿る。70年代に『バニシング IN TURBO』で監督デビューしたロン・ハワードは、水を得た魚のように技巧に走りまくる。過剰に思える編集と音楽も、劇的すぎる運命を前にしては、程よい加減だ。惜しむらくは、富士スピードウェイにおける最終決戦の描写が淡泊なことか。
ライバルがいるからこそ面白いスポーツの醍醐味がここに
清原和清VS.桑田真澄、浅田真央VS.キム・ヨナ、アイルトン・セナVS.アラン・プロストetc…伝説に残るライバル関係がその競技を盛り上げてきたが、それが対照的なキャラクター同士となれば恰好のドラマになる。生い立ち、性格、レースに挑む姿勢から女まで全方位からラウダVS.ハントを分析し、頂点を極めた゛同士゛としての愛憎を導き出す。脚本は『フロスト×ニクソン』のピーター・モーガン。さすがの職人技だ。
とはいえ無条件に前のめりになるのは、忠実に再現された数々のレースシーンだろう。手に汗握る興奮とは、まさにこの事。セナ亡き後、F1を離れたファンの心をも再び焚きつけてくれそうだ。
ロン・ハワード監督の職人技を久しぶりに堪能
レースシーンは悪くはないが、日本GPの描写はモノ足りなく、『グラン・プリ』にはかなわない。とはいえ、久しぶりにロン・ハワード監督の職人技が冴え渡り、初期作でみられた周りが見えなくなる男の性を描写。ヤリチンとネズミ顔、対照的な人生を描くだけに焦点を絞っているため、観方によって淡泊なダイジェストに見えたり、キャラの内面が見えてこないという意見もあるだろう。だが、それがリアルで、たまに2人が出会うからこそ、スパイスとして効いてくる。
もちろん西ドイツGPの映像を観たいがために『ポール・ポジション』に行ったら、シドニー・ロームの実況レポートを延々見せられた苦い過去を持つアラフォーは必修!
焦点が絞れているからこそシビレる硬派ドラマ
F1ドキュメンタリー映画『ポール・ポジション』を知る70年代世代には歓迎。当時の天才レーサー、ジェームズ・ハントとニキ・ラウダのデッドヒートや、後者のクラッシュ~カムバックの舞台裏を覗けるのか嬉しい。
ハントとラウダの性格の違いや、ライバル意識のぶつかり合いに加え、映画はクラッシュ後のラウダのカムバックに向けた根性や、その原因を作ったハントの苦悩にスポットを当てる。それぞれの内なる闘いに裏打ちされたデッドヒートの壮絶さに、アツいものを覚える観客は少なくないはずだ。
演出も演技もこのアツさのために機能していると言っても過言ではない。焦点の絞りこみによる勝利。
シンプル・イズ・ベスト!
アカデミー賞に向けての賞レースからは弾かれているが、筆者が「本当に面白いシネマGP」で優勝のチェッカーフラッグを振りたいのは本作である! コレは“男の娯楽映画”として理想的にシェイプされた一本!
スピード! アクション! メカフェチ! 好敵手同士のドラマ! さらに「無理して勝つより、しのぐことが大切だな」など阿佐田哲也的な教訓まで得られてしまう。
『バニシング IN TURBO』から監督業をスタートしたロン・ハワードの最高作か?とも思うが、ぶっちゃけ筆者が燃えているのは、ニキ・ラウダも「ニック・ラムダ」の名で登場したTVアニメ『グランプリの鷹』(77~78年)の記憶が甦っているからです!