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ゴーン・ガール (2014):映画短評

ゴーン・ガール (2014)

2014年12月12日公開 149分

ゴーン・ガール
(C) 2014 Twentieth Century Fox

ライター9人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.8

ミルクマン斉藤

男と女のあいだには……。【ネタバレ注意】

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

やたらと速く減衰するクレジット、色度を限界まで落とした画面(6Kキャメラの効果絶大)。冒頭から不穏な空気に満ちた本作は、ミステリという形を借りて結婚生活…ひいてはジェンダーのはらわたを抉ってみせる悪意に満ちた快作。まるで当て書きのようなB.アフレックのマズヒズム混じりなへにゃへにゃ男ぶり(憎めないヤツなのは記者会見の席や写メ撮られたときの対応で判る)と、陽の当たらない名女優・R.パイクのエキセントリックな怪物ぶり(理詰めで考えるとボロのあるトリックだし、結局母親への承認欲求だったの?と思わせる動機は月並みだが)が好対照で笑わせる。ほぼノイズの域にまで踏み込むT.レズナーの音楽がヤな感じを増幅。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

ありのままの女性の狂気全開!黒い笑いで包む極上のミステリー

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 このデヴィッド・フィンチャーは新しい。磨きがかかったヴィジュアルセンスで魅せるブラックな笑い。表向きはミステリーだが、自己愛に満ちた男女間に横たわる不審/不信をえぐり出す快作だ。人間のはらわたを見つめる演出に一分の隙もないが、不気味なまでの通俗性が加わった。女性が内に秘めた虚飾・欲得・狂気が全開していくプロセスは、恐怖を通り越し滑稽なほど。“ありのまま”が高らかに謳われた2014年の真打ちともいえる。でくの坊ベン・アフレックと氷の美女ロザムンド・パイクの“没個性”を存分に活かし、メディアに翻弄される「幸福」の真実に震え上がらせる。つまり彼らが演じるのは、今を生きる者たちの本性かもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

何気にジャンル映画の巨匠!?

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 今もっとも大金を費やしてジャンル映画を撮れるのはフィンチャーだ……と言うとファンに怒られそうだが、21世紀にサスペンスを撮らせたら、この人より巧い人はいないだろう。

 ロマンチックな悲劇が転調するや、男の一観客としてはゾッとする展開に突入。いかにも思い出話的な甘い回想描写と、現実のシビアな描写の比重が徐々に変化する。後半はそのサジ加減は絶妙という他ない。

 とくに目を引くのはヒロインが軟禁される別荘のシーン。『パニック・ルーム』の避難部屋や『ゾディアック』『ドラゴン・タトゥーの女』の地下室にも似た、冷ややかな閉塞的緊張は圧倒的。フィンチャーのサスペンス演出の妙が、ここに如実に表れている。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

ありのままの自分では生きられない ※一部ネタバレ!?

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

<以下一部ネタバレがあります>
 仮面夫婦とはよく言ったもんだが、しかし人間なら誰しも多かれ少なかれ、他者からこう見られたいという理想の自分を演出しながら生きているという面は否定できないだろう。
 で、本作は頑張ってデキる男を演じて格上のお嬢様と結婚したがために、地獄巡りをさせられる羽目になった男の話。失踪事件を機に明かされていく“理想の妻”の恐るべき本性は、ある意味で肥大した承認願望の暴走だ。
 冒頭の失踪ミステリーから一転、仮面夫婦の戦慄すべき実態を暴くブラックコメディへとなだれ込むフィンチャー監督の演出は舌を巻くような巧さ。ロザムンド・パイクの怪演にも恐れ入る。

この短評にはネタバレを含んでいます
中山 治美

観客をも当事者として巻き込む名匠の手腕

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 劇場型犯罪という今日的テーマを題材にし、俗っぽさをブラックユーモアに昇華させながら、謎解きの緊張感と醍醐味もたっぷり。そんなサンペンスの名手であるD・フィンチャー節に痺れる。妻失踪事件をメディアに公表した途端に始まる報道合戦。大衆の反応を観ながら、自分たちが有利になるよう情報操作を試みる展開は米国らしいところ。だが次第に我々は気付かされるだろう。メディアに踊らされているのは登場人物だけでなく、私たちの心も…であることを。
 ただ、B・アフレックのダメ男ぶりがハマり過ぎて、こいつに何らかの落ち度がある事だけは明らか。そこは揺るぎなしってことで。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

これを観るまで、14年ベストテンは決めるべからず!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

妻の失踪事件というテーマゆえ、“アメリカの闇の描く重厚なドラマ→拒否反応”があるなら、それは間違い。まさに“チェイシング・エイミー”な、恐ろしいほどのハマリ役を手にしたベン・アフレックに、恐ろしいほどに大化けしたロザムンド・パイク。そして、恐ろしいほど面白い原作を手にしたデヴィッド・フィンチャー。三者三様の予期せぬ化学反応から、ユーモアたっぷりの恐ろしいほどヤバい男女のエンタテイメントが仕上がった。確かに入口は社会派イヤミスながら、先の読めない展開と怒涛の演出で突っ走り、出口には爽快感…。ただ『バージニア・ウルフなんかこわくない』のオマージュもたっぷりで、ここまでデートに向かない映画もない!?

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

全くダレない2時間29分、これぞ「語り」の新次元!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

もうびっくり。「猛烈な面白さ」だけがえんえんフラットに続いていく。ストーリーテリングにおいてD・フィンチャーはさらなる新次元に達したのではないか。夫婦劇→メディアもの→悪女スリラーなど複数の主題に凄い速度で移行しながら、強度が全く落ちない。これなら「何でも語れる」し「どこまでも語れる」はずだ。

原作者のギリアン・フリンは通俗や世相の取り扱いが巧く、『告白』における湊かなえ=中島哲也のタッグを連想したりも。役者の使い方は完璧。ベン・アフレックのボンクライケメンぶり、セレブガールからすっぴんサバイバーまで驚異のふり幅を披露するロザムンド・パイクの覚醒。特に後者は賞レースの女優部門を賑わせるはず!

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

ベン・アフレックのでくの坊ぶりが生かされました!

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

素敵な男性と思って結婚したら実は……となったときの対処法を考えさせられたミステリーだ。夫と妻の視点を変えて事件を見つめる構成は平凡だが、事件を追う警察とメディアが作り出すヒステリックな世論をからめ、夫婦の溝を浮き上がらせる。哀れな被害者だったニックはリベンジ妻とメディアに翻弄されるうちに加害者扱いされるが、報道メディアによって被害者と加害者が簡単に入れ替わる状況が実にリアルだ。単純で平凡なニックを演じるベン・アフレックは演技が上手だったためしがないが、でくの坊ぶりがキャラクターにぴったり。さらに素晴らしいのがエイミー役のロザムンド・パイクで、憎悪を丹念に育てていくサイコ・ビッチぶりが圧巻。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

フィンチャーの美学、極まる。

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

まず映像美。デジタル映像の冷たく端整な質感は、フィンチャーの求める美学に合致するのに違いない。キャスティングも映画を見た後では、これ以外に考えられない。そして、ストーリーの妙。登場人物2人の視点からの物語を分かりやすく描き分けて謎解きエンタテインメントに仕上げるだけでも見事なのに、その背後に人間が生きていくということはどういうことなのかという深いテーマを潜ませ、さらにフィンチャー流のブラックなユーモアがたっぷり仕込んである。原作者で脚本も手掛けたギリアン・フリンは、フィンチャーが1stシーズン全話を監督するTVシリーズ「Utopia」の全脚本も担当。かなりフィンチャー好みなようだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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