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武士の献立 (2013):映画短評

武士の献立 (2013)

2013年12月14日公開 121分

武士の献立
(C) 2013「武士の献立」製作委員会

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.8

中山 治美

ドロッドロの加賀騒動を台所から爽やかに

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 『武士の家計簿』の二番煎じと侮るなかれ。通称“加賀騒動“と呼ばれる加賀前田家の家督相続を、実在した包丁侍の家庭から描くという新たな歴史の考察に挑んだ意欲作だ。さらに当時のレシピ集「料理無言抄」を紐解き、武家や庶民の食文化を再現するという、風俗史学にも切り込んでいる。『武士の家計簿』のヒットがなければ生まれなかった企画であり、やり尽くされた感のある時代劇に一筋の光をもたらす新機軸かもしれない。現に、本作がワールドプレミア上映されたサンセバスチャン国際映画祭では、時代劇=チャンバラというイメージの強い外国人にとっても新鮮に映ったようだ。
 ただ企画の志の高さに反して、主演2人の芝居は現代風で、おまけにエンディング曲は超ポップと軽過ぎるきらいも。さらに言えば、クライマックスの饗応料理の品々を、もう少しきちんと見せて欲しかった。包丁侍夫妻が絆を深めることになった加賀食材巡りの旅がどんな結果になったのか、重要なシーンだと思うのだが。ちなみに筆者はプレス用資料に掲載された写真で確認出来たが、果たして観客に伝わるだろうか? 

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

理不尽な武家社会で己の道を模索する人々を日本的情緒豊かに描く

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 江戸時代の武家の食卓なんぞを見目麗しく再現しつつ、やっぱり日本料理っていいよねえ、伝統文化っていいよねえ、なんて能天気なことをのたまうホームドラマ時代劇みたいなものを予想していたら、見事なくらいに裏切られて嬉しくなった。

 ここで描かれるのは、武士としてのアイデンティティを失った若き包丁侍(藩主の料理人)の苦悩と葛藤、そんな夫を3歩下がりながらも支えていく妻の逞しさ、そして個人の自由意思を許さない全体主義的な武家社会の厳しさだ。格式を重んじる社会構造の中で人はいかにして生きるべきなのか、どうすれば理想と現実の折り合いをつけられるのか。不本意な運命に耐え忍ぶ人々を互いにつなぎとめ、時には希望へのヒントを与えるもの。それが、本作の場合は“料理”なのである。

 ことのほかシリアスな物語を日本的情緒と大らかさで包み込んだ朝原雄三監督の演出は実に味わい深く、古き良き日本映画の伝統を今に感じさせる。大和撫子の強さと優しさを体現した上戸彩の情感豊かな演技も素晴らしい。惜しむらくは、純和風な映画とあまりに不釣合いなエンディングのテーマ曲だろうか。せっかくの余韻を台無しにしてしまっている。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

今風のヒロイン像が魅力的な、風通しのよい時代劇

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 タイトルが表わすとおりの時代劇で、江戸時代の武家社会の一面が切り取られているが、堅苦しさはない。武家に嫁いだヒロインの視点で物語は語られ、その勝ち気なほど前向きな生き方が魅力的にとらえられているからか、とてもモダンで、風通しのよいドラマとなった。

 年下の夫に邪険にされても簡単にはヘコまないし、武家の嫁としての身分をわきまえながらも主張すべきことは主張する。何より、調理場に立つ姿がとても印象深く、包丁や箸のさばきが活き活きと映える。料理の腕に自信があり、それを楽しんでやっているヒロインの姿勢が凛としていて、いい。

 そういう意味ではヒロイン、上戸彩ありきの作品ではあるが、いらだちを抱えながらも寡黙で、感情表現が上手ではない夫にふんした高良健吾のたたずまいも妙味。時代劇とは縁の薄い、彼らと同世代の観客にも訴えるものがあるのではないだろうか。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

職人は黙って仕事をする

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

失礼な物言いながら「意外に良かった」という感想に尽きる。企画の枠組みは相当デンジャラス。あからさまに『武士の家計簿』を受けた二匹めのどじょう狙いで、しかも『かもめ食堂』や『南極料理人』以来、定番のネタとなった「食」。さらに上戸彩が「理想の妻」って『半沢直樹』ですよね……。これだけわかりやすくお客に見透かされるのって逆に損では?と心配になるほど。

ところが実際に映画を観ると、あざとい印象が不思議なほど払拭されている。ケレン味や派手さは全くなく、淡々とキープされる安定感。特にテレビナイズされた上戸彩の大ぶりなキャラ的演技が、古き良き撮影所映画のトーン&マナーに落ち着いていくのは結構驚いた。

監督の朝原雄三は、少女マンガのさわやかな映画化『時の輝き』でデビューした松竹の社員監督。『釣りバカ日誌』シリーズの後期を担い、その中で小津安二郎にオマージュを捧げた(『麦秋』の引用もある)『釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?』という忘れ難い名品もそっとモノにしている。どんな仕事も黙って引き受け、一定以上の品質に仕上げる。そんな「職人の美徳」が底抜けな企画の外壁を静かに支えている。

この短評にはネタバレを含んでいます
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