エスケイプ・フロム・トゥモロー (2013):映画短評
エスケイプ・フロム・トゥモロー (2013)ライター4人の平均評価: 3.8
こちらの一種のマレフィセントはどこか愛しい
楽しいものとして作られた作り物の数々が、モノクロで撮影されて、ホラー映画の形式で映し出されるだけで、悪夢のような光景になる。ディスニーランドでの隠し撮りの効果は抜群。誰もが無意識に感じていた禍々しさが、剥き出しにされて姿を現す。
とはいえ冒頭に表示される注意書き通り、特定のアトラクションについての物語ではない。人間がつい抱いてしまう幻想についてのダーク・ファンタジー。幻想が積み重なっていった先には歪みが生じ、そこに思わぬものが住みつくようになる。
こちらにも一種のマレフィセントのような悪い魔女が登場。こんな悪夢の世界には、むしろこういうものが住み着いていてほしい。
アメリカン・アンダーグラウンド、ここに甦る。
人工的な夢の空間と得体の知れぬ禍々しさはほとんど常に同居するもので、映画でいうなら『ナイト・タイド』『恐怖の足跡』『エレファント・マン』といったカーニヴァルものがそれを証明しているが、そんな幻想映画(あえてホラーとはいわない)の系譜に繋がるように本作もまたモノクロ。冒頭のビッグサンダー・マウンテン滑走シーンから、クリアでありながらもただならぬ邪気を静かに発散する画面の素晴らしさよ(これが民生機一眼レフによるものとは驚きだ)。この遊園地に忍ばされたウォルト・Dの秘密のリビドーを喚び起こすような、およそ“隠し撮りインディ映画”とはかけ離れた、ゴージャスかつ豊饒なオーケストラ音楽も確信的だ。
ウォルト叔父さんが草葉の陰で泣いています。
ディズニーランド&ディズニーワールドは世界でもっともハッピーな場所だ。足を踏み入れるだけで事故や病気、暴力や不安なんてネガティブなことを忘れられる。さすがは『人魚姫』の結末すら変えるディズニー! 賛否両論あれど、彼らのハッピーにかける意気込みには圧倒される。が、そんなディズニー思想や“臭いものにフタをする”手法にNOをつきつける人もいるのは事実。ランディ・ムーア監督はその一人で、衝撃的なエンディングからは企業化された夢の王国が人々に与える影響への危機感が伝わる。彼の皮肉な見方に拍手を送るか、大人気ないと受け取るかは人それぞれ。でもネズミが媒介する菌によるアレを彷彿させる展開は、やり過ぎ?
「オトナ帝国」にケンカを売ってみた!
夢と魔法の国に、口うるさい妻と2人の子とやってきた、サエない父がお姉ちゃんに目を奪われ、お下劣妄想にふけっていると、ある陰謀に巻き込まれる…『映画クレヨンしんちゃん』である。とはいえ、こちらの「オトナ帝国」の展開はあまりに遅く、手ブレのないゲリラ撮影による園内巡りが延々続く。そういう意味では、わざわざ舞浜に行かなくても、長蛇の列に並ばなくてもいいアトラクションムービーだが、デヴィッド・リンチばりのシュール描写を期待すると、やや肩透かし。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』同様、完全なネタ映画止まりだが、裁判沙汰覚悟でセックス、バイオレンス&ブラックなオチをブチ込んだ意欲は買いたいので、★おまけ。