FRANK -フランク- (2014):映画短評
FRANK -フランク- (2014)ライター5人の平均評価: 4
歌声もいいんだねえ、あの怪優。
凡庸なモノしか作れないジョン(最近絶好調D.グリーソン)のサリエリ的焦りと悲哀にいっぽうの軸足はあるが、しょせん狂言回し。やはり巨大なカブリモノを一瞬たりとも脱がない変人フランクの、ペルソナに依存した可笑しくも病んだカリスマに魅せられる。映画内フィクションとして結成され、俳優陣がプレイもするバンドって少なくないが、このオリジナル楽曲はちょっと素晴らしすぎ! フリーキーな挙動が似合うエレクトロ担当M.ギレンホールもいいが、カブってるからこそパワフルなフランクの中身があの人って…(僕は資料読んでなくて知らなかった!)。そういや思わず笑っちゃう走りかた、『それでも夜は明ける』そっくりだ。
「才能」をテーマにしたおかしくて哀しいお話
凡人は「俺にもできる」「有名になれるかも」とすぐ勘違いし、天才肌は(ある程度成功しても)環境的に報われず、往々に心の病を深めていく。
音楽に限らず、インディーズと呼ばれる世界にタッチしたことのある者にとっては身に覚えのありすぎる話だろう。このリアリティはプロとアマの垣根が曖昧になり、表現をおカネに換え難くなった不況&ネット普及後の現在、かなり一般化しているはず。「才能」をテーマにした定番作といえば『アマデウス』だが、アレがどこまでもクラシックに思えてきた。
覆面キャラはロック史のカルトな奇人伝説が参照されている。英国式青春映画に『悪魔とダニエル・ジョンストン』を混ぜ込んだ作風と言えるかも。
意味不明なマスク演技が結実する終盤が心に刺さる
ミュージシャン志望のジョンが「閃いた」と作曲するのがヒット曲のパクリとわかる冒頭でオフビートな展開を期待させてくれるし、奇抜すぎるバンドメンバーの言動やマイケル・ファスベンダーがかぶる巨大マスク(入浴用もアリ!?)も強烈におかしい。が、本作の肝は奇天烈バンドの栄枯盛衰ではなく、魂が傷ついた青年の癒しの旅路なのだ。凡庸なジョンの影響で「万人に愛される音楽」作りを目指して自我瓦解するフランクが終盤で見せる熱唱が実に痛々しく、心に突き刺さる。ファスベンダーが顔を隠すなんてハンサムの無駄使いと思っていたらどっこい、それまでの不可解なマスク演技はすべてラストのためにあったのだと納得。すげ〜よ。
覆面の天才の孤独よりも、才能なき者の悲哀が深い
素顔を見せない主演男優マイケル・ファスベンダーがクローズアップされているが、ドラマはもうひとりの主役ドーナル・グリーソンの話と並立していると見るべき。
ファスベンダーふんする主人公フランクは終始ハリボテのマスクを脱がず、その秘密がミステリーとして機能。理解するまでに時間のかかる、天才肌のキャラクターとして面白い。
フランクが“あちら側”、すなわち天才組ならば、グリーソンふんするジョンは“こちら側”で、他のバンド・メンバーと同じようにはフランクを理解できない。ドラマはそれゆえの切なさをしっかり押さえている。キャラの魅力という点ではフランクが上だが、共感を集めるのはジョンの方だろう。
マイケル・ファスベンダーはかなり歌える!
"子供の見開いた目"なのか"瞳孔の開いた目"なのか、ぱっちりおメメの巨大なまんまる頭に、明らかに大人の男性の身体。そんなフランクがインディバンドのボーカルで、歌って、跳ねる。このキャラのインパクトが総て。それだけでこの映画を見る価値がある。
マスクを被ることを選んだ人間の話なのかと思ったらそうではなく、マスクを脱ぐことが出来ない人間の話で、かつ、彼を取り巻く人々の話。キャラの見た目が異常事態なのに、お話が普通の展開なのがちょっと残念。
ファスベンダーもグリーソンもちゃんと歌えるのにビックリ。グリーソンが歌う歌の数々は自作だそうで、そのしょーもないゆるさも自宅録音インディぽくてイイ感じ。