誘拐の掟 (2014):映画短評
誘拐の掟 (2014)ライター3人の平均評価: 4
『ルックアウト/見張り』に続き、この監督には心がある。
いわばハル・アシュビー監督の遺作『800万の死にざま』の後日譚。つまりローレンス・ブロック「マット・スカダー」シリーズの映画化なのだが、あちらのジェフ・ブリッジスがアルコール依存に悪戦苦闘していたのに対し、こちらのリーアムはすっかり抜けきったあとのマット・スカダー。ただし依存する要因となった過去はまだ引きずっていて、それがストリート少年TJと繋がりを持たせることになるというのに機微があり、凄惨極まる猟奇事件の中で大きな清涼剤となっている。色彩を極力抑え、90年代終盤のブルックリンらしさをクールに再現したM.マライメアJr.(コッポラの耽美な近作群やPTA『ザ・マスター』)の撮影も素晴らしい。
ハードボイルドな世界観を堪能したい猟奇ミステリー
昨年だけでも4本の映画に主演ないし準主演という、ハリウッド基準でみれば超売れっ子のリーアム・ニーソンだが、本作を含めてそのいずれもが一定のレベルをクリアしている安定感に改めて感心する。
本作で演じるのはアルコールで身を持ち崩した元刑事の私立探偵。寒空のニューヨークを舞台にしたノワールな雰囲気が、リーアムの骨太な渋さと色気を際立たせる。全盛期のチャールズ・ブロンソンにも匹敵するカッコ良さと言えよう。
誘拐犯コンビがサイコなサディスト、その被害者である依頼人もヤクザな連中と、どこを向いてもワルばかりな相関図もまた魅力。ムード重視な側面は否めないものの、このハードボイルドな世界観は好みだ。
リーアム押し作品というより、本格派ミステリー
アル中や贖罪キャラが同時期公開の『ラン・オールナイト』と被るものの、リーアム・ニーソン主演作としては同作とは違った意味で密度が濃く、面白い。
勝因は推理ドラマに重きを置いたこと。ひとつひとつの謎を検証して次の謎に進むストーリーの緻密さは、原作ありきの作品らしい歯応え。犯行現場に足を運んだ主人公が周囲を見回し、何かを発見する、セリフではなく映像で物語るショットもミステリーの興奮を喚起する。
早い段階で正体を現わす犯人のキャラにひとクセ加えているのも妙味。何をしたいのかわからない、その人物像によってスリルは加速する。リーアムのスター映画というより、高純度のミステリーとして楽しみたい。