しあわせへのまわり道 (2014):映画短評
しあわせへのまわり道 (2014)ライター3人の平均評価: 4
成熟した大人の女性の幸せ探し
長年連れ添ったダンナに三行半を突きつけられた裕福なインテリ中年女性が、心機一転のために通い始めた自動車教習所のインド人教官との交流を通じ、改めて自分自身の生き方を見つめ直す。
自動車の運転を人生の舵取りになぞらえる辺りはありがちな気もするが、ヒロインの挫折からの再起を頭の悪い女性誌よろしく恋愛やら女子力アップやらに結び付けず、成熟した大人の女性の幸せ探しとしてしっかり描いている点が好感触。
そして、移民国家である米国の諸事情を背景に、人種も文化も階級も違う2人の男女の友情を通して、思いやりと労わりの精神こそが自分も周りも幸福にするという普遍的な真理を示唆する。そのさりげなさがいい。
異文化への理解と敬愛が、明日のワタシを幸せにする。
深刻な題材が少なくないI.コイシェ。今回も背景はかなりヘヴィなのだが語りの軽さはいつも以上。スコセイジ組の編集者によるキビキビした編集も含め爽やかな仕上がりだ。インドから政治亡命してきたインテリのタクシードライバー兼運転教官と、21年間連れ添った夫からとつぜん離婚宣言されたNYの書評家との初老カップル恋愛物語…かと思いきや途中で事態は思わぬ方向に展開、「まわり道」どころではなくなっちゃうが、それでもふたりの恋情はゼロではなく、そこかしこで顔を出すのが可愛い。例えばB.キングズレーのターバンの色、あるいは真っ赤な苺のアイスキャンディ。愛情表現が鮮やかな色彩で示されるのもいいのだな。
ポエティックな運転指導が心に沁みました
NYで偶然出会ったシーク教徒ダルワーンと人気書評家ウェンデイが友情を育む設定は凡庸だが、主役二人の人物造形と距離感が素晴らしい。監督はダルワーンの高潔さを最初に印象づけ、徐々に素性を明らかにする。その過程で観客はウェンディ同様に彼に好印象を持ち、彼が置かれた状況に憤りすら感じる。実に巧みな演出だ。しかも、いきなり好きだ惚れたとならない距離感が実にリアルだし、二人の関係を恋愛方向に持っていかない監督の寸止め感が心地よい。とはいえ一番心に沁みたのは、人生指南を思わせるポエティックな運転指導。運転中も普段も平常心を保つことが大切、とのお言葉に運転席に座ると人格が変わる自分自身を深く反省。