クリーピー 偽りの隣人 (2016):映画短評
クリーピー 偽りの隣人 (2016)ライター5人の平均評価: 4.4
“早く楽になれ!”と言うような香川も、家もコワい!
『CURE』以来の黒沢清の怖いスリラー。いや、これは本当にコワい。
恐怖の核は香川照之の隣人キャラ。イヤなヤツと思ったら、次に会ったときは殊勝で、その次にはまたイヤなヤツになり、最終的には極悪人の顔をあらわにする。で、主人公は翻弄され、苦しむのだが、こんなイヤな思いをするくらいなら、いっそ香川サイドに付いた方が楽かも……と錯覚させるのは、優れた恐怖映画の証しだ。
もう一点、感心したのは香川家のビジュアル。散らかった玄関先と薄暗い廊下、『悪魔のいけにえ』的な鉄の扉。『呪怨』の幽霊屋敷にも似ているが、なまじっか生活感がある分リアルで、絶対にここには入りたくないと思ってしまう。
トニー・レオン&アンディ・ラウでリメイク希望!
『残穢』に続き、竹内結子が懲りずに“事故物件”に巻き込まれる! つか、香川照之演じる隣人の存在が明らかに事故ってるわけで、『黒い家』の大竹しのぶ超え。しかも、『ソロモンの偽証』以来、「待ってました!」な藤野涼子との父娘関係に「?」「!」が止まらない。その不穏な空気がジワジワ全キャラに浸透し、最初はあまりにデカ過ぎる鍋やセットにツッコミを入れてた観客までもクリーピー(気色悪っ)状態に…。つまり、原作はあくまでも下敷きで、『CURE』以上に黒沢清監督しか描けないトリップ感。西島秀俊の病み(闇)演技も絶好調だけに、「ダブルフェイス」のレスとして、トニー・レオン&アンディ・ラウでリメイクしてほしい!
神経の休まる隙など一切与えない重量級の恐怖は圧巻です!
元刑事の犯罪心理学者が挑む未解決の一家失踪事件捜査と、隣に住む不気味で奇妙な家族。この2つの謎が実は密接に繋がっていた…と分かった瞬間から、想像を絶するような狂気が主人公に襲いかかる。
最初から最後まで不穏な空気と緊張感の連続。観客に神経の休まる隙など一切与えないばかりか、これでもかと容赦なく奈落の底へと突き落としていくのだから、見終わったあとの疲労感たるや!
犯人の動機や深層心理にあえて踏み込まず、ひたすら得体の知れないブラックホールのようなサイコパスとして描いている点も見事。そんな怪物の作り上げた悪夢の世界こそが、あの家の狂ったような内部構造だ。全編に渡って重量級の恐怖に圧倒される。
フリーキー&ストレンジ! クセが凄すぎる大傑作!
引っ越した時点でアウトです、という類の恐怖映画は珍しくない。だが本作は前川裕の原作を容赦なく踏み台にして、黒沢清がやりたい放題だ。高度は『CURE』を遥か超え、世界記録だが異常すぎて不認定になったようなハイパージャンプ。本当に巧くて怖い香川照之(マジ最高)が初登場時から電波ビリビリ放ち、それに対抗するのが、全く情緒の欠如した男(西島秀俊)という……まさに現代の二大病理対決だ!
演出は踊り狂ってるかのごとくノリノリ。アクセルを踏み込むほど全体の時空が歪んでいく。その加速にターボを掛けるのが『貞子vs伽椰子』も手掛ける安宅紀史の想像力のリミッターを解除した美術。一体どこなんだ、“あの部屋”は!!
ああ、そういうものってあるかもしれない
ああ、そういうことってあるよね、と思わせる、身近な距離感からスタートする導入部が上手い。その小さなエピソードが続くだけなら嫌な話になってしまうところを、出来事の振り幅がどんどん大きくなって、エンターテインメント作品ならではの展開をするので、距離を持って楽しむことができる。
そのうえでこのストーリーが巧みなのは、精神的な問題点を抱えているのが、映画のタイトルとなっている隣人だけではないこと。主人公やその周囲の人々も、ごく軽度で微妙なものだが、精神的な問題点を抱えていないわけではない。彼らが抱えるものが、ああ、そういうものってあるかもしれない、と思わせる。本当の怖さはそこにある。