グリーン・インフェルノ (2013):映画短評
グリーン・インフェルノ (2013)ライター5人の平均評価: 3.2
イタリア産カンニバル映画にオマージュを捧げた現代版『食人族』
南米アマゾンの森林開発に抗議する学生グループが、自分たちが守ろうとした原住民に次々と食い殺されていく。
言うなれば現代版『食人族』なわけだが、さすがにあの映画の持つ異様なリアリズムといかがわしさには到底敵わない。あれはネオレアリスタの流れを汲むルッジェロ・デオダートの作家性と映画作りがまだ野蛮だった時代の産物であり、21世紀に再現し得るものではない。
それは監督も十分承知なのだろう。理想主義的な正義感に駆られた無知な若者たちを私利私欲のため利用するリーダーに焦点を定め、現代のエコテロリズムを大いに皮肉ったブラックコメディ的な作品。シーシェパードとか大っ嫌いなんだろうなあ、イーライ・ロス。
世界を知った気になってる気取り屋は喰われてしまえ!
1970~80年代のジャンル映画を愛するイーライ・ロスが『食人族』をモチーフにした作品を撮るとなれば、ホラー好きとしては期待せずにはいられないが、これは満腹感を覚えるに十分。
人体がちぎれ、内臓が引きずり出される&むさぼられる等のゴア描写は強烈で、グロの限界に挑もうとする気概が感じられる。もちろん、この手の描写が苦手な方は近寄ってはいけない。
とはいえロス作品はゴアだけが売りではない。『ホステル』シリーズと同様に、世間を知ったつもりでも世界を知らない人間は、ここでも大変な目に遭う。そこに宿るスノビズムへの痛烈な批判。自分を利口と思って、いい気になってはイカンと思った次第。
子供の頃は怖かった食人族映画の笑いをキャッチして
『世界残酷物語』に始まるヤゴペッティのモンド映画は、「怖い=悪」だった子供には刺激が強すぎた。それに連なる食人族映画をイーライ・ロス監督がどう料理するのか? 悪趣味を笑いに昇華する彼のセンスと手腕への期待は裏切られなかった。「アマゾンの環境と少数民族を守る」と甘っちょろいモラルをふりかざす大学生の正義と理想が食人族の前では崩壊し、なかには原始的な生存本能に目覚める奴も出てくる展開もシニカルでいい。自分のモラルを異文化民族に求めるのは奢りであり、危険が伴うと監督は言いたいのだろう。同意! 残酷なシーンもあるが、最初の犠牲者の場面は「注目の多い料理店」が脳裏に浮かび、一瞬だけほのぼの!?
イーライ・ロス、ブレのないヤツ
ジャンル映画への愛たっぷりなうえで、現代を舞台に、今の"原住民を救え"的運動家たちのウサンクサさについての、キツいツッコミにもなっているのがポイント。運動家たちの行為は、本当に原住民のためのものなのか。なので、実際にアマゾン奥地の映画を見たことがない人々のいる村でロケを敢行し、村人たちが通常1日に稼ぐ賃金の20倍の報酬を払い、デジタルカメラやMP3を与えて、彼らの生活を激変させたのも、正しい。こうした行為に眉をひそめる"原住民を救え"的運動家たちの"良識"に、中指を立ててみせるのが、本作のコンセプトなのだから。映画を撮ること自体でもそれを実践するとは、イーライ・ロス、ブレのないヤツ。
賛否は当然のブラックコメディ
『食人族』を愛するイーライ・ロス監督による、食人&モンド映画オマージュ大会(最後に元ネタをクレジットするあたり潔い)。『人喰族』同様、意識高い女子大生が酷い目に遭う展開だが、彼女を取り巻くドラマがしっかり構築されているからこそ、その後の悪夢のような残酷描写が活きてくる。また、伏線回収の巧さや「ウルルン滞在記」的描写など、気づけば8年経っていた前作『ホステル2』より、確実にいい仕事をしているロス監督。何かとうるさいご時世で、これまたデリケートな題材だった『アフターショック』寄りのブラックコメディに仕上げ、自身も意識高い策士っぷりが伺える。ただ、その計算高さが評価の分かれどころかもしれない。