無限の住人 (2017):映画短評
無限の住人 (2017)ライター4人の平均評価: 3.3
まとわりつくダークなイメージが傷ついても死なない疲弊感に奏功
原作は出発点にすぎない。復讐譚という柱はあるが、まるで映画草創期の時代劇のように、劣勢に立った主人公が膨大な数の相手を向こうに回し、斬って斬って斬りまくる。テーマ性よりも不良性感度高き肉体性への執着。三池崇史は「何をやっても木村拓哉」をポジティブに捉え、昨今のキムタクにまとわりつくダークなイメージさえもキャラづくりに取り込む。傷ついて斬られても死なない/死ねない疲弊感と厭世観が奏功している。次々と現れる敵キャラのキャスティング配置も見応えあるが、戸田恵梨香の活劇はもっと観たかった。珍獣ぶりを発揮する杉咲花は、唯一無二の女優になりつつあるが、喚きながらのセリフ回しは聴き取りにくい。
あなたの正義は他者にとっての悪となり得る
血みどろバイオレンスも辞さないハードな演出が『十三人の刺客』を彷彿とさせる、三池崇史監督ならではの時代劇アクション。絶対的な正義の不在、つまりあなたの正義は他者にとっての悪となり得るというシニカルな視点も、三池監督がたびたび取り組んできたテーマだ。
必ずしも不死身=無敵ではなく、バンバンと肉体を切り刻まれ苦痛に顔を歪め、そのまま死んで楽になりたくても死ねない。そんな哀しきヒーローに浮世の無常と不条理が投影される。平然とトカゲの尻尾を切る権力の身勝手はさながら森友学園騒動だ。相変わらず杉咲花の天才的な勘の良さには舌を巻くが、スターのオーラに凄みを加えた木村拓哉がしっかり物語を牽引する。
ひたすら斬り続ける男を"数"と"時間"で描く
ひたすら斬り続ける。何人も斬り続ける。何分もの間ずっと斬り続ける。その人数が膨大なうえに、刀は肉をスパッと切るのではなく、刃は人体の脂肪と血塊に抵抗されながらザクリザクリと不器用に肉を斬っていくので、斬っていく時間が長くなる。斬り続けた刀は切れ味が鈍っていくが、それでも斬る。そのように、斬る相手の数の多さと時間の長さによって、"斬られても死ぬことなく、ただ斬り続けるしかない男"という主人公が描かれていく。
登場人物たちの髪型や衣服の形や色はコミック原作時代劇アクションの定石通り、コミックそっくりの非写実系。それらの色形と、斬り続ける時間の重さの対比が面白い。
東の『ハイランダー』現る!
前作『テラフォーマーズ』に続いて、三池崇史監督の原作愛が欠けているのは否定できないが、ハッキリと『十三人の刺客』路線を目指した感がある。つまり、グロ描写も辞さない真摯な姿勢で作品に向かい合ったことで、魅力あるジャニタレをさらに輝かせている。そのため、木村拓哉の万次としてのハマリ具合は、不死身の剣士繋がりで、“東の『ハイランダー』”といってもいいだろう。妖艶すぎる福士蒼汰の統主もいいが、「逸刀流」メンの儲け役は誰が見ても乙橘槇絵役の戸田恵梨香。「ギャルサー」以来、少林寺拳法経験者の身体能力を生かした役では?と思うほど見事な立ち回りを観れば、今後アクション女優としての飛躍を期待せずにはいられない!